中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

中学受験をするかどうか。塾選びの前に押さえておきたい覚悟|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2022年9月22日 石渡真由美

低学年の頃は「うちは中学受験なんてさせるつもりはない」と言っていた家庭も、周囲から塾の話などを聞くと、「やっぱりうちもさせようかしら……」と心が揺れ動くものです。しかし、「みんなが受験するからうちも」といった選択は、あまりおすすめできません。夏休みを終えた、2学期以降は中学受験を検討される方が徐々に多くなる印象です。そこで今一度、中学受験に必要な覚悟をお伝えしたいと思います。

事実、中学受験はお金がかかる

まず、中学受験には少なくない費用がかかります。もし中学受験を始めるとなると、それを専門に指導している塾に通うのが一般的です。大手進学塾のホームページを見ると、4年生コースは月額2万5000円〜3万5000円程度です。

これが安いか高いかは各家庭の経済力次第で、その捉え方は異なりますが、気を付けなければならない点があります。いわゆる月額の費用には、夏期講習や冬季講習などといった特別講習の受講料やテキスト代が含まれていないということです。

こうした特別講習は「オプション」として組まれています。一般的にオプションと聞くと、受けない選択も可能と思われがちですが、実際は「受けて当然」というスタンスで年間カリキュラムが組まれることが一般的で、実際には、ほぼ受講せざるを得ない空気があります。こうしたもろもろの費用を加味すると、4年生から6年生までの3年間にかかる塾関連費用は、250万円以上になります。

さらに、そこに各学校の受験料が加わります。近年、中学受験は6校程度受験することが一般的です。同じ学校を複数回受けた場合は、受験料が少し割安になるという学校もありますが、1校あたりの受験料は概ね2万5000円〜3万円ほどです。仮に6校それぞれ別の学校を受験するとなると、それだけで15万円以上は必要になります。

当然、入学してからもお金がかかります。ここでは私立一貫校の場合をお伝えしますが、その場合、年間の授業料や諸経費は概ね120万円前後です。吹奏楽部や剣道部など、道具にお金がかかる部活に入ればさらに費用がかかります。それが中高の6年間続くわけですから、それなりの覚悟や計画、蓄えも必要になります。

“わが家の方針”を決めて始める

中学受験をするなら塾は不可欠というのが私の持論です。しかし、高額な塾代を払ったからといって、お子さんの成績がグングン上がって、人気の難関中に合格できるわけではありません。中学受験で第一志望の学校へ進学できる子は全体の約2割や3割などと言われます。大半の子は第一志望校に進学できないのです。

中学受験をするからには、偏差値の高い学校、人気の難関校へ入れたい。これが多くの親御さんの本音だと思います。偏差値が高い学校を目指すことが悪いわけではありません。ですが、「そこしかない!」とばかりに、何がなんでも上を目指そうとすると、お子さんの今の実力がそこまで届いていないときに、苦労します。

頑張ってなんとかその学校を受験するレベルにまで到達できればいいのですが、なかには6年生後半時点で、偏差値が10以上足りないのに、難関の第一志望校合格に照準を合わせて、とにかく頑張らせようとする親御さんがいます。巷には華々しい逆転合格のエピソードが掲げられますが、6年生後半から偏差値を10以上アップさせて、難関校合格を勝ち取るのはとても困難で、ほんの一握りの子しかいません。根性論や努力だけでは通用ないこともある。それが受験です。

一方、中学受験を始める際に忘れてはいけないこととして、「そもそも中学受験でお子さんの人生が決まるわけではない」ということがあります。努力をしてもなかなか成績が上がらないようであれば、途中で中学受験を撤退しても何ら問題はないのです。

たとえば、人気の学校として早稲田大学や慶應義塾大学の付属中が挙がります。内部進学を期待し、中学受験の志望校として挙がることが多い学校です。ところが、こうした学校は他の私立中高一貫校よりも定員数が少なく、中学受験では非常に狭き門です。一方、大学受験では一般入試や総合入試など、さまざまな入試スタイルがあり、入試日設定も多く、学部によっては入りやすいこともあります。つまり、中学受験では合格が難しくとも、大学受験で合格することは十分可能ということです。

ところが、中学受験のための通塾が始まって、渦中取り込まれると冷静な判断ができなくなります。「こんなにお金をつぎ込んだのだから、今さら諦められない。もっと頑張ってもらわなきゃ!」と子どもに無理にさせてしまう親御さんが毎年います。そうなると、親子関係がギクシャクしたり、子どもが勉強嫌いになってしまったりと、好ましくない方向へ向かうこともあります。「わが子の幸せのために」と始めたはずの中学受験が、そのような結果になってしまうのは、なんとか避けていただきたいです。

そういった懸念から、私は常に、第一志望校、第二志望校、第三志望校と単純な序列をつけるのではなく、併願校を含めお子さんを通わせたい、お子さんが通いたいと思っている学校を幅広い偏差値帯から複数選び、第一志望「群」と捉えることを推奨しています。そうしておけば、どの学校に進むことになっても、「行きたい学校へ行けることになった」と思うことができるからです。

前向きな気持ちで中学校生活を始められるかどうかは、合否と同じくらい、いやそれ以上に大切なはずです。ですから、中学受験を始める際には、わが家の教育方針を家族で話し合い、「うちはこういうスタンスで中学受験をする」とか、「万が一、伸び悩んだら撤退するという選択も用意しておく」などといった基本方針を決めておくとよいでしょう。そのほうが、予期せぬ展開になっても慌てることが少なくなるでしょうし、慌てたとしても、立ち止まって冷静さを取り戻せるはずです。

ときには厳しくも必要

中学受験の勉強は小学校で習う勉強よりも遙かに難しく、高い学力が求められます。たとえば国語の入試問題なら小学生の男子に、大人の女性の心情(たとえばお母さんの心情など)を問うたりします。つまりは、精神的に成熟することが求められているのです。

ところが今の子どもたちは、少子化で大人の目が行き届き、幼い頃から大事に、大事に育てられています。学校の準備も塾の支度も親が管理し、忘れ物があれば親が届けるといったさまも目にします。社会的に「パワハラ」や「児童虐待」などの刺激的な言葉が広がっていて、厳しい教育は批判の的になりやすくなっています。そういった状況もあって、優しさに偏り過ぎな子育てが主流になっている印象です。

ただ、言い方は少々厳しくなりますが、私は今の子どもたちが非常に甘やかされて育っているように感じるのです。過保護や過干渉は、子供の精神的な成長とは逆向きに作用するものだと思います。というのも、人は失敗から多くを学ぶからです。親御さんが手取足取りで、なんでも面倒を見ていると、子供にとって糧になるはずの失敗経験が不十分なまま、時を過ごします。

わが子に中学受験をさせたいのであれば(そうでなくとも、子育てにおいても)、親御さんは極力子どもの自立を促すべきです。「なんでもやってあげる」のではなく、お子さんが自分のことは自分でできるように、良質な失敗経験をさせてあげて欲しいのです。

またまた厳しいことを書いてしまいますが、「子どもの精神的成長は、親の責任」だと私は考えます。よく、「うちの子は幼くて……」と、学力が伸びない理由をお子さんに向けて嘆息される親御さんがいますが、「それはこれまであなたがお子さんを甘やかしてきたからですよ」と言いたい。

小学生が挑む中学受験は、成長差(個人差があります)が大きく影響してしまうことは間違いありません。自立を促そうとしても、お子さん自身の成長がまだ追いつかないということもあります。そういう場合は、お子さんの成長を待つ。場合によっては、高校受験に切り替えるのという選択でもいいと思います。

大事なのは、親御さんがお子さんをよく観て、その時々のベストを考えていくこと。つまり、中学受験は親の関わりがとても重要だということです。近年、共働き家庭が増え、受験勉強を塾に丸投げしているご家庭も少なくありませんが、高校受験や大学受験と違い、中学受験はわずか10歳〜12歳の子どもが挑戦する受験だということをしっかり頭に入れて、お子さんに寄り添って欲しいと思います。これらの覚悟が決まってから、中学受験をはじめてみましょう。


これまでの記事はこちら『今一度立ち止まって中学受験を考える

※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。YouTubeチャンネル「アテナチャンネル」を運営。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。