褒めるのと叱るの、どっちの方がやる気になる?―― 親子のノリノリ試行錯誤で、子供は伸びる
こんにちは。中学受験専門塾 伸学会代表の菊池です。
2023年の中学受験が終わり、各塾が今年の入試を総括する説明会・報告会を行っていますね。
どこかの塾の説明会に参加してみたりはしましたか?
いろいろな塾の説明会を回ってみると、各塾の特徴というか、それぞれの塾がどんな子をどんな風に伸ばしたいのか違いがよくわかって面白いですよ。
まだ低学年のご家庭も、参加してみてご家庭の方針と合う塾を探す機会にしてみてはいかがでしょうか。
入試報告会といえば、私にも伸学会を設立したばかりのころに1つ思い出があります。
当時はまだ本も出版しておらず、メルマガやYoutubeでの発信もしていなかった頃でした。
ですから、塾生の保護者さんに向けて、お子さんを伸ばすための秘訣をお伝えするのは報告会や保護者セミナーの場しかありませんでした。
そこで、受験が終わった後に伸学会でも報告会を開催し、その年の中学受験界全体の動向を伝えると共に、受験を終えた卒業生数名に参加してもらって話をしてもらったのです。
そして、卒業生それぞれに、私の方からインタビュー形式で「親からかけられてやる気になった言葉は?」と聞いて答えてもらいました。
その時に、麻布に合格した少年が「模試の成績が悪かった時に、『こんなんで受かると思ってるの?』と言われて、なにくそ!と思ってやる気が出た」と言ったのです。
即座に私は「はい!こういうやつは珍しいので真似しちゃだめですよー!」とその場の保護者さんたちに釘を刺し、その場は苦笑に包まれました。
人選を間違えたかなと思ったできごとでした。
近頃は、「子どもは褒めて伸ばそう」という風潮がありますよね。
私もこうした連載や、個人で発信しているメルマガ・Youtubeでも、お子さんをたくさん褒めてくださいと伝えています。
しかし、中にはこの説明会で話をしてくれた卒業生のように、叱られた方がやる気になり伸びていく子もいます。
となると、「果たしてこの子はどちらなのか?」を見極める目が、私たち親や指導者には必要になってきます。
いったいどうやって見分ければ良いのでしょうか?
そこで、今回はその見極めポイントについて参考になりそうな論文をご紹介しようと思います。
自信のない子・やる気の薄い子は褒められると伸びる!
この論文[*1]の執筆者は、モチベーションの研究家として有名なシカゴ大学のアイエレット・フィッシュバッハ博士たちです。
この論文では、学生たちに結果に対してのフィードバックを行うときに、
「うまく問題を解けたときに褒める」のと、
「ミスをしたときに叱る」のと、
どちらの方が成績が伸びたかを調べた実験結果が紹介されています。
その実験では、結果を分析すると、
・『自分を初心者だと思っている人たち』は褒める働きかけの方が成績が伸びた
・『自分のことを上級者だと思っている人たち』は叱る働きかけの方が伸びた
ということがわかったそうです。
面白いのは、実際に成績が良い上級者かどうかは関係なく、本人が主観的に自分は上級者だと思っているかどうかによって違いが出たという点です。
成績が良い子でも、自信がない子は叱ると心が折れる可能性があるので要注意ということですね。
そして、自分を上級者だと思っている自信満々な子は、簡単なことができただけで褒められると、馬鹿にされているように感じてやる気をなくすようなので、こちらも注意が必要そうです。
また、この論文では、結果ではなくプロセスに対して行ったフィードバックについての実験も紹介されています。
その実験では、半分の参加者にはタスクの途中で「まだ8割も残っていますね」とネガティブなフィードバックを行いました。
残りの半分の参加者には「もう2割も終わったんですね」とポジティブなフィードバックを行いました。
その結果分かったことは、
・『目標へのコミットメントが低い人』はポジティブなフィードバックでやる気を出し、ネガティブなフィードバックではやる気が下がる傾向がある
・逆に、『目標へのコミットメントが高い人』は、ネガティブなフィードバックでやる気が出る傾向がある
ということだったそうです。
「目標へのコミットメントが低い」、とは、中学受験でいえば、「合格するために勉強を頑張るぞ」とあまり思えていない状態であり、親や先生から「目標を決めなさい」と言われて「とりあえず」目標を決めているような状態です。いわばその目標が「他人事」です。
それに対して、「目標へのコミットメントが高い」とは、志望校への合格が「自分事」になっていて、心から合格したいと思っているような状態です。
同じ「第一志望〇〇中学校」という目標を掲げていても、「合格できたらいいな」と「何が何でも合格してやる」では、すいぶんと熱量が違うのがイメージできるのではないでしょうか。
そして、その目標に意義を感じておらず、それほど達成したいと思っていない状態だと、ネガティブなフィードバックはやる気を失わせる可能性が高いということなのですね。
ここまでをまとめると、
自分は上級者だと思っている自信のある子で、成績アップや受験合格といった目標に対して当事者意識を持っている子は、厳しく叱ることで伸びやすい。
一方で、自分は初心者だと思っているまだ自信が形成されていない子で、成績アップや受験合格にそれほどコミットしていないやらされ感がある子は、厳しく叱ると潰れてしまう。
そんな傾向があることがわかります。
これは、あらためて言われてみれば納得できる内容なのではないでしょうか。
叱られて伸びるのはごく一部の子たちだけ
スポーツの世界でもしばしばパワハラが問題になりますよね。
テレビ番組でも、エリートスポーツ選手たちが語る高校時代の思い出などは、一般人からすると引いてしまうような内容がけっこうあります。
しかし、彼らはその道の上級者であり、プロになりたいとかオリンピックに出たいとか、高いコミットメントがあったからこそ厳しい指導でより伸びたということです。
私の指導上の経験とも一致します。
大手塾で選抜クラスを担当していたときには、ビシビシ叱って伸ばすスパルタ式の授業をしていました。
そして、生徒の成績を伸ばして合格させていました。
きっと同じように、厳しい指導で勉強させ難関進学校の合格実績を出している塾は多いでしょう。
しかし、これが通用するのはごく一部の子たちだけで、多くの子は勉強に対してそれほど自信がない初心者です。
なにしろ人生経験がそれほどなく、成功体験も少ないわけですから。
数字的なデータで言えば、偏差値60以上の子は統計的には母集団の約16%しかいません。
10人に1~2人しかいない計算です。
偏差値70となると約2%ですから100人に2~3人です。
偏差値いくつが取れれば「自分はできる。上級者だ」と思えるのかは主観の問題ではありますが、少数派であることはわかると思います。
そのうえ、80点~90点を取ってもミスをして取りこぼした10点20点を叱られるような育ち方をしてきた子は、自信を持てず失敗を恐れて委縮しているというケースも多いので、自分を上級者と思えるようなメンタルの強い子はさらに少ないかもしれません。
また、4~5年生のうちは、まだ受験についてもピンと来ておらず、志望校なんて明確に決まっていないし、あったとしても「何がなんでも」というほどの思いは無かったりします。
だから、偏差値いくつを取りたいなんていう気持ちは薄い子がほとんどです。
そんな高いコミットメントも自信も無い普通の子たちには、ネガティブなフィードバックよりポジティブなフィードバックの方が効果的である場合が多いのですね。
ということで、
ほとんどのご家庭にとっては「子どもはほめて伸ばす」が正しい!
ただし、成績優秀で自信満々な子には、叱って伸ばす方が有効な場合もあるよ!
ということでした。
子どもに「自分ならこうだ」を押しつけないように
中学受験をさせようという親は「高学歴・高所得」で、自分は勉強ができ、勉強にコミットしていたという人が多いでしょう。
そういう人たちが、「自分なら、改善点を忌憚なくビシッと指摘してくれるネガティブなフィードバックの方が嬉しい」という感覚で子供に接すると危険です。
結局のところ「自分だったらこれでやる気が出る」を我が子に押しつけると失敗します。
「自分なら」という感覚は捨てましょう。
そして、大手塾の公開する合格体験記で、御三家に合格したような「上級者」の言っていることを鵜呑みにしないようにもしましょう。
伸学会の報告会で話をしてくれた子のように、叱られてやる気になって頑張って合格したという子たちの体験談がいくつも載っているでしょう。
それは、上級者だ(と自分で思っている)から叱られて伸びたのであって、叱られたことで伸びて上級者になったわけではない可能性が高いです。
あなたのお子さんに当てはまるかどうかはわかりません。
お子さんの目線に立ち、「この子は」どうなのだろうかと考えて、試行錯誤していってください。
ポジティブなフィードバックとネガティブなフィードバック、それぞれ様々なパターンを試してみてどちらの方が効果的だったかを見極め、良かった方を続けるようにしていくのです。
そうすれば、お子さんの能力を引き出し、成績アップや受験の合格に導いていってあげられますよ。
頑張ってくださいね。
それでは。
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