中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

過去問のタイプと学校が求めるもの。わが子との相性を考える|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2024年9月05日 石渡真由美

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校風やカリキュラム、進学実績など、志望校を決める際にはいろいろな判断材料がありますが、その中に「過去問との相性の良さ」もあげられます。

しかし、「過去問との相性」と言われても、何をどう見て判断したらよいのか分からないという方は多いのではないでしょうか。

そこで、今回は過去問との相性の見方を解説します。ぜひ、志望校選びの参考にしてみてください。

中学受験では算数重視の風潮があるけれど……

中学受験ではよく算数が重要科目と言われています。そのためか、過去問との相性を見るときも、算数入試の問題にその学校の特徴が出やすいと考えられがちです。確かに各学校の入試問題を見比べてみると、毎年やたらと複雑な計算問題を出す学校があれば、「場合の数」や「規則性」の問題を必ず出してくる学校があったりと、それぞれ特徴があります。

中学受験の指導に携わるようになってかれこれ35年以上が経ちますが、私も若いときは「算数こそがその学校の特徴」と思い、入試問題の分析に力を入れていました。しかし、長年の経験を積んでいく中で、中学受験を俯瞰して見られるようになると、算数入試の特徴は問題傾向の一つに過ぎず、その学校の本質を表しているとまでは思わなくなったのです。

確かに各学校の算数の入試問題に、出題傾向の違いはあります。しかし、毎年そのような問題を出しているのかといえば、若干切り口が変わっていたり、ある年を境にガラリと入試傾向が変わったりするともなきにしもあらず。このように「絶対」とは言い切れないのです。ですから、「この学校はこの問題しか出さない」と決めつけずに、塾で習った単元はまんべんなく学習するように心がけましょう。そして、最終的に過去問を参考にしながら合わせていくというやり方が良いのではないかと思います。

社会の記述はどこまでの解答を求めているか深度を見ておく

中学受験における社会の学習範囲は、「地理」「歴史」「公民」と多岐に渡ります。かつては、社会といえば暗記科目で、一問一答型の知識を問う問題が多く見られていましたが、近年は思考力や表現力が重視されるようになり、記述問題が中心になりつつあります。社会の過去問をチェックする際、3分野のうちのどの分野に比重を置いているかを確認しておくことは、各学校の特徴を知る上でとても大切です。

例えば、成蹊中学では、歴史分野は近代史しか出題されません。これは学校側も説明会でそう明言しています。中学受験で1校勝負ということはまずあり得ませんので、他校を受験することも考えれば、やはりどの分野もまんべんなく学習していくほかありません。しかし、志望校として検討する場合、ぜひ認識はしておきたいですね。

また、ひとくちに記述問題といっても、学校側が求めるレベルは違ってきます。塾で学習した基本知識を答えるだけでいい学校もあれば、基礎知識に自分の考えを交えて答えさせる学校もあります。後者の場合は、塾の勉強だけでなく、日頃からニュースや新聞などに目を通し、今社会で起きている様々なことに関心を持ち、親子でそれらについて考えたり、議論をしたりといったことを日常的にしている家庭でなければ難しいでしょう。こうしたことから、記述問題の深度を見ておく必要があります。

たとえばよくある記述問題として、次のようなものがあります。

<問題>

1970年代以降、日本の遠洋漁業の漁獲量は激減しました。その理由を述べよ

この問題に対し

<解答例1>

オイルショックが起こったから。また各国が排他的経済水域を設定したから。

と書けばOKの学校もあれば、

<解答例2>

第四次中東戦争が起こり、原油の供給量が減って価格が高騰し、漁船の燃料代が上がったため。また各国が、海洋資源および海底資源を優先的に取ることのできる排他的経済水域を設けたため、遠洋漁業の漁場が減ったため。

と書かないと満点答案とならない学校もあります。学校側の要求するレベルを見極めねばならないということです。

実は国語入試は学校の思想が一番反映されやすい

では、過去問の何を見ればよいかというと、私は国語の入試問題こそ、親が真っ先に見るべきものだと思っています。国語入試には、物語文、論説文、随筆、詩などいろいろな文章が出題されますが、その素材文となるものを学校が選びます。そこに学校がどんな生徒像を求めているかが、面白いくらいに見えるのです。

例えば、吉祥女子では毎年、女性を主人公にした成長物語や、女性の地位や社会進出をテーマにした論説文などが出題されています。そして、「あなたならこういうときにどうしますか?」と受験生本人の考えを聞きます。そうやって、自分が置かれている環境と世の中を照らし合わせながら、自分はどう生きていきたいかを問うているのです。

これこそが、この学校の求める生徒像、すなわち思想です。この思想が、ご家庭と合っているか、お子さんと合っているか──。それが、過去問との相性の良さだと私は考えます。そうした思想にまったく共感できないのに、「ただ知名度のある学校だから」「偏差値帯でちょうどいい学校だから」といった理由で選んでしまうと、入ってからその学校の雰囲気に馴染めないといったミスマッチが起こりえます。

こうした点から、私は親御さんたちには「過去問で相性を見るのであれば、まずは国語の入試問題から解いてみてください」とお伝えしています。さらに言うと、お子さんに解かせる前に、ぜひ親御さんに国語の過去問を解いていただきたいのです。もし答えが分からなければ、学校がホームページなどで発表している模範解答を見てください。そして、「どうしてこの学校はこんな問題を出したのだろう?」「この問題からどんな生徒像を求めているのだろう?」「それはうちの子に合っているのだろうか?」といった視点を持って、志望校選びの判断材料にしてください。

得点よりも解いた後の感想が重要 秋に今一度冷静な判断を

よく過去問で点数が取れると、その学校との相性がいいと言われることがあります。しかし、私は得点力だけで学校との相性を判断しない方がいいと考えています。特に過去問に取り組み始めた9月〜10月は、早合点しないほうがいいと思います。

それよりも、子ども本人に「この問題、解いてみてどうだった?」と感想を聞いてみるといいでしょう。たとえ点数が悪くても、「楽しかった!」「この話、面白そうだったから続きを読んでみたい」などの感想が出れば、相性としては手応えあり今後、伸びていく可能性も高まります。一方、点数は届いていたけれど、「めっちゃ疲れた」「なんかめんどくさい問題がいっぱいあって、しんどかった」という声が上がったら、それ以上は伸びていかないかもしれません。また、仮に合格できたとしても、入ってから学校になじめず苦労するかもしれません。

一方、得点も子どもの感想もイマイチだった場合は、そもそもその学校の求める学力レベルに達していないか、その学校との相性が合わないことが考えられます。そういう場合は、志望校選びを再検討した方がいいでしょう。親御さんにとってぜひとも行かせたい学校はあると思いますが、あくまでもお子さんの受験なので、ここは大人の側で冷静な判断が必要です。

お子さんが幸せに6年間を過ごせる学校選び

私は武蔵中学・高校を卒業していますが、武蔵中は私が中学受験をした40年前から記述問題を出す学校でした。今でこそ、記述問題を出す学校が増えていますが、当時は武蔵くらいしかそのような問題は出していなかったと思います。私は小学生の頃、特別勉強ができる子というわけではありませんでしたが、武蔵中の入試問題を解くのはとても楽しかったと記憶しています。

武蔵中はとにかく書かせる学校です。入学してからも、どの教科でもレポート課題が多い。今でも覚えているのが、中1の夏休みの課題です。自分が関心のあるテーマについてレポートを書くというものでしたが、私はベトナム戦争についてレポート用紙100枚くらい書きました。調べ作業はそれなりに大変でしたが、とても楽しく取り組んだことを今でも覚えています。学校との相性が良かったのでしょう。そのため、充実した6年間を過ごすことができました。

「志望校選び」において一番大切なことは、お子さんがどの学校で6年間を過ごすことが一番幸せか、を考えることだと思います。通うのはお子さんです。親御さんが希望する学力レベルももちろん大切な要素ではありますが、その学校に合うか合わないかは、お子さんの学校生活を左右するとても大切な要素です。

各学校の入試問題にはそれを見極めるメッセージがたくさん詰まっているということをぜひ感じ取ってみてください。

※記事の内容は執筆時点のものです

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