連載 中学受験は親と子の協同作業

子どもが「塾に行きたくない」と言い出したら|中学受験は親と子の協同作業! 正しい理解がはじめの一歩 Vol.19

専門家・プロ
2018年11月01日 石渡真由美

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「中学受験の勉強がスタートした4年生のはじめは、楽しそうに塾に通っていたのに、近ごろは『塾に行きたくない』と言うことが増え、このまま中学受験を続けていいものか迷っています……」

こうした親御さんの悩みは、学年問わずよく受けます。その理由はさまざまですが、なかでも多いのが「塾の先生と合わない」という問題です。

「塾の先生と合わない」には2つの原因がある

「塾の先生と合わない」という子は、主に2つの原因が考えられます。ひとつは子ども自身の甘え、もうひとつは先生への恐怖心です。

中学受験では、小3の2月から大手進学塾に通い、そこから3年かけて受験のための勉強を進めていきます。

多くの子の場合、それ以前の“勉強環境”は、小学校か家に限られていたはずです。小学校の授業は、クラスのみんなが理解できることを目的に丁寧に進みます。また、家庭学習はお子さんのペースに合わせて、親御さんがサポートしながら進めていったでしょう。

ところが、中学受験の塾は、毎回決められたカリキュラム通りにどんどん進んでいきます。先生によっては「ここは覚えておけ」「あとは宿題をやっておけ」など、自分の遊び時間を侵食する宿題が出されたりします。

こうした自分のペースが尊重されない塾の雰囲気がイヤで、反抗心を持ってしまう子がいます。そういう子の多くは、幼い時から家族に甘やかされ過ぎて育った傾向が見られます。

塾では混乱しそうになる思考をグッと我慢して授業を聞き続けることが必要になりますし、先生の早いしゃべり言葉を聞き逃すまいと集中力を持続させることも必要になってきます。

甘やかされ過ぎてきた子は、このちょっとした我慢が苦手です。このような子どもにとっては、塾の授業は我慢を学習する場と考えてみることも大切です。

ただし、事が深刻な場合は、話が別です。以前、私の教え子に塾の出来事がトラウマになって、塾に行けなくなってしまった子がいました。

宿題を忘れた男の子が、塾の先生にこっぴどく叱られ、机をバーンと強い音で叩かれたことがありました。それを見ていた女の子が塾の先生を怖がるようになり、塾に通えなくなってしまったのです。そういうケースの場合は、心のケアが必要になります。

単なる子どもの甘えによるものなのか、そうではない深刻な問題なのかを見極めるのは難しいところですが、「子どもが塾に行きたくない」と言い出したら、まずはなぜそうなのか、その理由をしっかり聞きましょう。

5年生から勉強が難化 小さな目標を設定し納得感を持たせることが大事

塾に行きたがらなくなる理由は、ほかにもあります。塾の勉強についていけなくなってしまうケースです。

4年生まではなんとか頑張ってやってこられた中学受験の勉強。でも、5年生になるとついていけなくなる子どもが続出します。

その理由は次の2つです。

[1]割合や速さなどの難しい単元が多くなること

[2]4年生までは何度もくり返して解いて、解き方を覚えていたのに、5年生になるとやるべきことが増えて、くり返して解く時間を確保できなくなること

近年は、多くの塾がカリキュラムを早め、5年生までに中学受験に必要な算数の単元をすべて終わらせるようにしています。単元の進行スピードが早くなっているのです。

とはいえ、5年生の子どもにとって、入試はまだ先のことです。親が焦って「あと1年3カ月しかないのよ!」と脅しても通用しません。「あと1年3カ月も苦しい思いを続けないといけないのか……」と感じてしまいます。

[2]が原因の場合は、勉強のやり方を見直す機会が訪れたと考えてください。そのままの学習方法では、6年生になると、より一層ついていくのが難しくなるのは目に見えています。

「大量演習+くり返し学習」から「納得感を大切にした、質を高めた学習」に変えていく必要があるのです。

この学習方法の変更で大切なことは、いきなり全部を変えようとしないことです。次のように順を追って変えていきます。

【1】優先順位を考えて、宿題や課題を取捨選択する(全体量をこれまでの8割ぐらいにおさえる)

【2】1週間あたり5~6問、算数の文章題の解き方を子どもが親に説明できるようにする

【3】全体量を増やさないようにしながら、スピーディーにやるべき勉強と、スローにやるべき勉強に分ける(計算練習、基本的な一行問題はスピーディーにやるべき勉強。授業中にやった応用問題の復習・演習はスローにやるべき勉強です)

そして、それぞれに小さな目標を設定します。この小さな目標をひとつ乗り越えるたびに、その努力を認めてあげてください。

たとえば、

「今日は、2問をお母さんに教えて」(小さな目標を設定する)

(子どもが親に説明する)

「ちょっと長過ぎる説明だったけど、あなたがよくわかっているようで、よかったわ」(努力を認めてあげる)

という具合です。

反抗期はひと皮むけるチャンス 悪いことばかりではない

ついこの間までは親の言うことを素直に聞く子だったのに、近ごろは「今日は塾に行きたくない」と反発したり、「宿題は終わったの?」の問いかけに対して聞こえないふりをしたり……。

塾に行きたがらない原因のひとつには、子どもの反抗期も考えられます。反抗期というと、ひと昔前は中学生くらいというイメージでしたが、長年多くの子ども達と接してきた私の感覚では、近年、子どもの反抗期が早まっているように感じます。

女の子の場合は、早い子で3年生くらいから親の言うことに反発したり、聞き流したりする子が出てきます。男の子の場合は、4年生くらいから高校生くらいまでと時期にばらつきがあります。

反抗期に差しかかると、親はどう対応してよいものか頭を悩ませます。特に大事な受験勉強期間に親子でバトルがあったり、ぎくしゃくしたりするのは、親としてはつらいものです。でも、反抗期は悪いことばかりではありません。

反抗するというのは、自分の中にある“うっぷん”に気づくことです。それは自分を振り返る行動であり、物事を客観的に見られるようになりつつある証拠でもあります。

この「客観的に見る力」が身につくと、国語の読解に強くなります。これまで、主人公の気持ちを聞かれているのに、自分の気持ちを書いてしまうような男の子が、反抗期を迎えると、自分と相手(主人公)を切り離して見ることができるようになります。

国語の読解力には物事を客観的に見たり、比較したりする力が不可欠です。反抗期を迎えると、それができるようになるので、中学受験では有利に働くこともあるのです。

ですから、子どもが反抗期になっても過敏に反応せず、「よし、来たな」とおおらかな気持ちで見守ってあげましょう。

子どもの反抗期は、本人の意見や言い分に対し、「そういうことか」と気づいてあげると収まることが多いものです。「そうだね、そういうこともあるよね」と一度共感してあげると、「お母さんは僕の話をちゃんと聞いてくれる」と感じ、心が落ち着いてきます。

6年生 ストレスを表す身体のサインを見逃さないで

6年生になると、「塾に行かない」「塾に行きたくない」とあまり言わなくなります。塾が持つ雰囲気と本人自身の成長により、「もうやるしかない」という気持ちに変わるからです。

しかし、なかには、それがストレスとなって、身体に症状が現れてしまう子がいます。

男の子に多いのが胃潰瘍、女の子に多いのが円形脱毛症です。

女の子の場合、自分で気がつかないうちに髪が抜け落ちていることもあります。かつて私が中学受験塾に勤めていたとき、授業の後の掃除で、特定の場所だけに髪の毛が異様に多く落ちていることがありました。

中学受験は、まわりの大人の関わり方によっては子どもに過剰なストレスを与えてしまうことがあります。身体に影響が出るほどのストレスを抱えていることがわかったときは、一度立ち止まってみることも大切です。

中学受験では一度塾のレールに乗ってしまうと、その途中で「受験をしない」という選択をするのが難しくなります。どの家庭でも大なり小なりの壁にぶつかりますが、最終的に9割は受験をすることになります。

でも、お子さんが深刻なストレスを抱えている場合は、きちんと親子で話し合い、受験をするかしないかをもう一度考えてみたり、受験の目的をもっとおおらかなものに捉え直したりする必要があります。

ひとくちに「塾に行きたくない」といっても、そこにある思いは子どもそれぞれ。ちょっとした気まぐれの場合もあれば、深刻な思いを抱えている場合もあります。どんな場合であっても、大切なのは日頃から親子でコミュニケーションを取り、話しやすい雰囲気づくりをしておくことです。

中学受験の勉強は長丁場で、気合いや根性だけでは乗り切ることはできません。親御さんがお子さんの一番の理解者になって、励まし応援してあげましょう。


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※記事の内容は執筆時点のものです

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