連載 中学受験は親と子の協同作業

中学受験 難関校が求める力とは?|中学受験は親と子の協同作業! 正しい理解がはじめの一歩 Vol.20

専門家・プロ
2018年11月08日 石渡真由美

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中学受験で難関校を目指すには、小さい頃から覚える勉強をたくさんしなければならないと思っている親御さんは少なくありません。確かに、塾で習う基礎知識は最低限覚える必要があります。けれども、難関校の入試は、それらの知識だけではとても太刀打ちできません。では、どんな力が求められるのでしょうか?

【思考力】初見の問題にも立ち向かえる好奇心と粘り強さが不可欠

近年、教育界では「アクティブ・ラーニング」が注目されています。そのアクティブ・ラーニングを強く意識した入試問題を出題するのが、麻布や渋谷幕張、渋谷渋谷などの「思考型入試」です。思考型入試の最難関校である麻布を意識した入試問題を、塾業界では「麻布傾向」と呼んでいます。

「麻布傾向」といわれる入試問題の大きな特徴は、学校や塾では習ったことのない初見の問題が出されること。特に理科入試では、小学生が見たことも聞いたこともないような内容が登場します。受験生はみんな同じスタートラインに立ち、試験会場で初めてその問題に立ち向かうことになります。

このような問題を解くには、文中に書かれている初めて聞く知識と、これまでの過去の学習や生活体験から得た知識を使って考えるしかありません。

こうした問題を解くときに必要なのが、自問自答です。

「今、ここでは何が分かっているの?」
「何を聞かれているの?」
「何が分かれば解けそう?」
「何を書けば、答えが見えてきそう?」

といった感じで、自分自身に問いかけながら、今持っている知識を使って解いていくのです。

また、こうしたひとつの知識だけでは解けない問題を解いていくには、周辺の知識にも気づく能力が必要です。物事を一点から見るのではなく、俯瞰的に見る力を持っている子は、「ああでもない、こうでもない」と自分が今持っている知識の引き出しを出したり、引っ込めたりしながら答えを探していきます。この「試行錯誤して考えること」こそが、難関校が求めているものなのです。

そして、もうひとつ大事なことがあります。初めて見る問題に対しても、「こんな問題は見たことがない」とひるまず、「まずは読んでみよう」「どんなことが書いてあるのだろう」と読み進めていける知的好奇心と、「僕なら絶対に解けるぞ!」という自己肯定感と粘り強さがなければ解くことはできないでしょう。

こうした知的好奇心や粘り強さは、ある日突然、発揮できるものではありません。これらは幼少期からさまざまなことに触れながら、小さな知的な驚きや成功体験を積み重ねて育まれるものです。

つまり、幼いときから覚える勉強ばかりしてきた子では、立ち向かうことはできないのです。

【処理能力】難関中の算数は手を動かしながら考えるのが鉄則

難関中の入試というと、「思考力」が問われる問題が多いことで知られています。しかし、それは男子校や共学校に多く、女子校に関しては当てはまらない学校もあります。

例えば女子御三家の一つ、女子学院では、強烈な思考力を問う問題はほとんど出題されません。同じく女子難関校で知られる桜蔭も、女子学院よりは思考型の問題が出ますが、それよりも重要となるのは処理能力です。

桜蔭、女子学院をはじめとする女子難関校の算数入試は、とにかくスピードと正確さが勝負です。一つひとつの問題は、男子難関校の問題より易しいけれど、問題数が多いのが特徴です。易しいとはいっても、塾で習う内容の発展的な問題が出るので、それなりの対策は必要です。こうした問題を短時間で正確に解く処理能力が求められます。

女子難関校の算数は、一目見ただけですぐに方針が見つかるような取り組みやすい問題に紛れて、実際に解いてみると処理が大変だったり、間違えやすいポイントが仕掛けられていたりするなどの難問が潜んでいます。

こうした問題を解けるようになるには、訓練が必要です。そのときに大事なのが、手を動かして考えることです。

また、男子校や共学校の最難関中学では、強烈な思考力を必要とするものが出題されます。問題文を読むだけでは、解法の糸口も見つからない。指示通りに書きつなげていって、やっと糸口らしきものが見つかるものや、小問1を解きながら気付いたことが小問2を解くヒントになっていたりします。

これらの問題も「手を動かす」ことが大切になります。じっと考え込むのではなく、どんどん書き進めていく中で発見できる何かが解く糸口になります。

どんな問題に対しても、まずは手を動かして解法を探り、面倒くさい計算でも「最後まで解き切ってみせる!」という強い心と粘り強さも必要になります。

こうした粘り強い思考力も、粘り強い処理力も、幼いときに何かに熱中し、やり遂げた体験が物を言います。処理能力を高めるには訓練が必要ですが、その土台となるのは、幼少期の過ごし方にあるのです。

【記述力】「あなたはどう考えましたか?」の問いに対し、自分の考えを自分の言葉を使って書く

もうひとつ、難関校入試で求められるものがあります。それは記述力です。中学受験の国語入試には記述はつきものですが、その難易度は学校のレベルによって変わってきます。

中堅校までは「抜き出し記述」で、文中に書かれている言葉をそのまま抜き出して答える問題が主流ですが、難関校になると、「この言葉とこの言葉を使って書け」「この接続詞を使って書け」などの「条件記述」が出題されます。

さらに、最難間校になると、「あなたはどう思いましたか?」と自分の考えを自分の言葉で表現する「自由記述」になります。

「自由記述」は学校のレベルに応じて、100文字や200文字など、文字数指定が変わってきます。中学受験で最も難しい国語入試を行う桜蔭では、300文字の記述力が求められます。

桜蔭の国語入試は、長文かつ素材となる文章の内容が難しいことで知られています。2018年度入試では、インターネットにおけるフェイクニュースを題材にした論説文が登場しました。こうした大人が読むような文章を、小学生が実感を伴って読めるようにするには、幼少期からの親子の会話がカギを握ります。

例えばテレビのニュースや特集番組を観ているときに、ただだまって観ているのと、「わー、おもしろい現象だね。どうしてこうなるんだろうね」「ニュースではこう言っているけれど、あなたはどう思う?」といった会話を日常的にできるかどうかで、その差は大きく違ってくることでしょう。つまり、「家族の社会科力的な知識」が問われるのです。

難関校の入試に必要な力の素は、幼少期に培われる

中学受験で難関校を目指すなら、幼少期からたくさん勉強しなければいけないと思い込んでいる親御さんがいます。

しかし、幼少期から早期教育に走り、小学1年生から塾に通い勉強させることはおすすめしません。受験勉強の先取りは、その内容を理解できる年齢に達していないために、効果よりも弊害が強く出ることが多いからです。

それよりも、この時期は学びの土台となる生活知識や身体感覚を豊かにするための遊びや親子の会話が大切です。それがのちに自分の知識となって、難問を解くときのカギや助けになることでしょう。


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※記事の内容は執筆時点のものです

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