中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

直前期 受験校選びを念入りに行えば、第一志望は最後まであきらめなくていい|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2023年12月14日 石渡真由美

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12月も半ばになり、いよいよ最終受験校を決める段階に入ってきました。

「○○中に入りたい!」と大きな夢を持って受験勉強を取り組んできたものの、現時点でまだその実力に届いていないと、第一志望校を「あきらめるべきか」「挑戦させるべきか」で悩むご家庭は多いことでしょう。

でも、この作戦をとっておけば「第一志望はあきらめなくてもいい」のです。その作戦とは……?

そもそも何を基準に第一志望は厳しいと判断する?

中学受験を始める理由は各家庭によって様々ですが、「○○中に入れたい」と明確な目標校があって、受験を選択したというご家庭も多いと思います。

しかし、現実は厳しく、入試直前期の今になっても、まだ模試の合格可能性のパーセンテージが低かったり、過去問で合格最低点に届いていなかったりという受験生もいるでしょう。こういう状況のとき、「このまま挑戦させるべきか」「あきらめるべきか」とても悩むと思います。

また、模試では合格可能性のパーセンテージは低いけれど、過去問では点が取れている、またはその逆の場合、どちらの結果を参考にしたらいいのか判断に迷うところです。

私は、直前期の今「見るべきものは過去問」だと考えます。

前回の記事でも書きましたが、模試はいろいろな学校の入試問題(類題)を盛り込んだ最大公約数的なもので、志望校の入試とは異なります。

正解率の高い基礎問題はきちんと押さえておかなければいけませんが、そうではない難問については、志望校の入試問題で出る確率が低ければ、解けなくてもいいのです。

つまり、「模試の結果」=「実際の入試の合否」ではないということです。

ですが、志望校の過去問で毎年出題される問題は、その学校の特徴と言えますので、解けていなければなりません。

つまり、模試の合格可能性パーセンテージが30%だったとしても、過去問で得点が取れていれば、その学校の入試問題と相性がいいと判断し、挑戦していいということです。

一方、模試のパーセンテージも低く、過去問も合格最低点より20〜30点足りない場合は、そもそもお子さんの学力レベルがその学校が求める水準に達していないので、「あきらめるレベル」となります。

そこは親御さんが冷静に判断してあげてください。ときどき、第一志望校の受験に非常にこだわるわりに、その学校の過去問をちゃんと見ていないという親御さんがいらっしゃいます。わが子の今の学力レベルで本当にこの問題が解けるようになるのか、今一度、過去問をしっかり研究してみてください。

そのうえで、受験するかしないかの最終判断をしましょう。くれぐれも親御さんの見栄だけで、受験校を決めないことです。

ただし、もしお子さん自身がその学校に強い憧れを持っているようなら、仮に合格可能性が低くても、「チャレンジ校」として受験をしてもいいと私は思っています。ただし、そうするには作戦が必要です。

2月1日の午後入試はライバルも受けていると思ったほうがいい

第一志望校が「チャレンジ校」となる場合は、併願パターンを念入りに考える必要があります。例えば2月1日の午前が第一志望校の入試だったら、1日の午後は持ち偏差値から10くらい下げた安全校にしておきます。なぜそこまで落とすのかというと、必ず合格を手に入れるためです。

私が主宰している塾は東京の吉祥寺にあるため、吉祥女子中を第一志望校にする子が多くいます。その子たちが併願パターンとしてよく選択するのが、1日の午後に入試がある恵泉女子中です。恵泉女子中の偏差値は、吉祥女子中よりも10~12くらい下になり、併願パターンとしてはあながち間違っていません。

ただ、よくある併願パターンでもあるため、同じように吉祥女子を第一志望にしている優秀な子たちが受験をするということを忘れてはいけません。場合によっては、不合格になってしまうこともあり得るのです。

2月1日の午後入試の発表は、夜の9時〜10時頃。そこで不合格を知ると、お子さんも親御さんもショックを受け、翌日以降の入試に響いてしまうことがあります。1日午後の結果は心の健全さを保つために、合否に関係なく告げないという決まりを作っておくご家庭もありますが、親御さんは結果を見ないわけにはいきません。

もし不合格だった場合でも、ポーカーフェイスでいられる親御さんならいいのですが、おそらくほとんどの親御さんは動揺してしまうでしょう。お子さんに合否を伝えなくても、親御さんのその様子で子どもはなんとなく感じ取ってしまうものです。

こうしたことからも、「2月1日の午後入試をどこにするか」は慎重に考えておきましょう。

わずか11歳、12歳の子どもが挑戦する中学受験は何が起こるか分かりません。当日、過度に緊張してしまったり、風邪やインフルエンザなどの病気に罹ってしまったりすることもあります。

ですから、2月1日の午後入試は、熱が出たり体調を崩したりして保健室受験になったとしても、絶対に合格できるくらいの「安全校」を選ぶことをおすすめします。

1月の「前受験」は単なるお試し受験ではない

1月に入ると、一足先に埼玉県、千葉県で入試が始まります。東京都・神奈川県の受験生にとっては、2月の本命受験前の肩慣らしとして受験するのが一般的になっています。しかし、この1月受験にも、念入りな作戦が必要だと私はかんがえています。

「前受験」というと、入試本番前に入試の雰囲気に慣れておくといった目的で受験をする人が多いと思います。その考え自体は決して間違ってはいませんが、ただ受けに行けばいいというわけではありません。

本命校の入試本番まで1ヶ月をきっています。コロナやインフルエンザなどにかかるリスクもある中、わざわざ貴重な時間を使って受験をしに行くわけですから、しっかりとした手応えを得るべき大事な入試だと、私は考えます。

1月の「前受験」は2〜3校受けることをおすすめします。そのうちの1校は、多少遠くても、合格したら行かせたいと思う学校を、もうひとつ、または二つは本番前のお試しとして必ず合格できる学校を受験するのが望ましいでしょう。

本連載でもたびたび申していますが、私は中学受験における志望校選びは、第一志望校、第二志望校、第三志望校とランク付けをするのではなく、合格したらぜひ行かせたいと思う学校を「第一志望群」という捉え方で受験するのがいいと思っています。

中学受験で第一志望校に合格し、進学できる子は全体の約3割と言われています。それだけ厳しい世界なのです。

第一志望、第二志望……という捉え方をしてしまうと、第一志望が不合格だった場合、「受験そのものが失敗に終わった」と思ってしまう親御さんは少なくありません。

確かに中学受験の目標は志望校に合格することですが、中学受験に挑戦する意義はそれだけではないと思うのです。学ぶ楽しさを知ったり、目標に向かって努力をしたり、失敗を修正していったりと、いろいろな経験ができることが大きな財産だと私は感じています。

そう捉えたとき、「第一志望校に合格できなかったら失敗」と思い込んでしまうのはとても残念なこと。短絡的ではなく、もっと長期的に中学受験を見ていただきたいのです。そのためにも、「第一志望校」ではなく、「第一志望群」という受験校選びを私はすすめています。

1月の「前受験」で「第一志望群」の学校の合格が手に入れば、もう安心です。万が一、その後の受験がうまくいかなかったとしても、すでに行く学校が確保されているからです。小学生の子どもにとって、この「安心感」は非常に大切です。

どのタイミングで合格できたかによって、入学後のモチベーションが変わってくる

中学受験では「できるだけ早く合格を手に入れておく」ことが吉となります。

1月の「前受験」で第一志望群の合格を手に入れられると、「自分はできるんだ!」と自信を持つことができ、その後に勢いがつき、無理かもしれないと言われていた挑戦校も合格してしまうこともあります。そのくらい、子どもの力は未知で、可能性に溢れているのです。

ですが、一度自信をなくしてしまうと、立て直しが難しくなるのも小学生。中学生や高校生であれば少しずつ大人に近づいているので、自分で立ち直ることもできるようになってきますが、わずか11歳、12歳の小学生にはそれは難しいでしょう。また、親御さんも強い心を持ち続けるのは難しいと思います。

中学受験の指導に長年携わってきましたが、私は毎年のように受験生の親御さんたちには「強気な受験は避けましょう」とお伝えしています。それでも何年かに一度は聞き入れていただけず、強気すぎる受験をしてしまうご家庭があります。

もちろんそれでうまくいけばいいのですが、なかには不合格が続き、いつまでも決まらないというご家庭が出てきます。

短期戦と言われる中学受験で、いつまでも試験を受け続けなければいけないという状況は、お子さんにとっても親御さんにとってもしんどいと思います。受験が長引けば長引くほど、そのプレッシャーは計り知れないものになっていくでしょう。入試を実施している学校も少なくなってくるので、受験校の選択肢も限られてきます。

ようやく合格が手に入れられたとしても、偏差値的にかなり下の学校だったり、説明会にも文化祭にも一度も行ったことがない学校だったりと、希望とは大きくかけ離れた学校に進学することもあります。

「とりあえず、進学先が決まればいいじゃないか」と思うかもしれませんが、同じ学校に通うにしても、早い段階で合格が取れて進学する子と、5日にようやく受かってしぶしぶ進学する子とでは、満足度は大きく変わってきます。

前者であれば、「行きたかった学校に通える!」と気持ちが高まり、中学校生活を好スタートさせることができますが、後者の場合は「なんで私がこんな学校に……」という気持ちが働き、先生や友達を見下して、まわりとうまく付き合えなくなってしまうことがあります。また、勉強に対するモチベーションも上がりにくくなってしまうのです。

だからこそ、受験校選びは非常に大事なのです。

「第一志望校」という考え方から「第一志望群」という考え方を持っておくと、たとえ偏差値の差はあっても、行きたい学校を受験するので、合格できた時点で大成功です。熱烈に行きたかった本命校でなかったとしても、満足度の高い受験になります。

中学受験は人生のゴールではなく、通過点です。ここでお子さんの学びの意欲を奪ってしまうこのないよう、受験校選びは慎重に進めていただきたいと思います。

※記事の内容は執筆時点のものです

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