中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

受験直前期の6年生の保護者に知っておいてほしいこと・心がけてほしいこと 模試・過去問・併願パターン|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2023年11月09日 石渡真由美

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11月に入り、6年生にとっては、いよいよ入試本番がすぐそこに見えてきました。9月から連続して受けている合否判定模試の結果を見て、「うちの子、本当に受かるのかしら? それとも……」と不安に駆られている親御さんは多いことでしょう。確かに模試の結果はある程度の信憑性はあります。ですが、それはあくまでも判断材料の一つ。今、最も大事なのは「志望校の過去問でどれだけ点が取れるかを知ること」「ムリのない併願パターンを検討しておくこと」の2点です。

模試は現状の学力を知り、今後の対策につなげる「宝物」

9月から月1回のペースで受けている合否判定模試。「毎日夜遅くまで勉強をしているのになかなか成績が上がらない」「9月の模試は良かったのに、10月の模試で成績が下がってしまった……」、突きつけられる合格可能性のパーセンテージを見て、不安な気持ちになっている親子は多いことでしょう。

しかし、模試はいろいろな学校の入試問題(類題)を盛り込んだ最大公約数的なもので、志望校の入試とは異なります。例えば算数の問題なら、よく後半の大問に「場合の数」や「立体図形の切断」など、難関校の入試で出てくるような難しい問題が登場します。御三家やそれに準ずる難関校を目指す子であれば正解しておきところですが、偏差値50前後の中堅校であれば、実際の入試で出題される可能性はかなり低く、できていなくても問題ありません。また、上位校であってもそこまで難しい問題は出題しないというケースもありますので、そうした問題ができていなくても不安に感じられる必要はありません。逆に、正解率が高い問題は中学受験でいうところの基礎問題に当たります。みんなが正解できる問題を落としてしまうと合否に響いてきますので、そこはしっかり克服していかなければなりません。

よく「またケアレスミスしている」と不正解の原因を何でもケアレスミスで片付けてしまう親御さんがいますが、本当にただのケアレスミスなのか、実は基礎知識が身に付いていないことが原因ではないかを見極める必要があります。一つひとつの問題を丁寧に見直しながら、「この分野はもう理解できているから大丈夫だろう」「この類の問題はどうも苦手のようだからもう少し類題を解かせてみたほうがよさそうだな」などきちんと分析し、次に生かしていくのです。このように模試は、現状の学力を知る判断材料になります。また、今後の対策につなげる「宝物」でもあるのです。

SNS情報の「逆転合格」は信じない

ところが、多くの親御さんは合格可能性のパーセンテージの数字だけに目が行き、一喜一憂しています。合格可能性のパーセンテージが70〜80%だったら「もう安心」、30%だったら「うちの子、もうダメかもしれない……」と思ってしまいがち。しかし、先ほどもお伝えしたように模試はいろいろな学校の問題が集まったものであることを忘れてはいけません。志望校の入試問題と模試の傾向が大きくかけ離れている場合はあまりあてにはなりませんし、合格可能性のパーセンテージが30%と出たとしても、決して見込みがないわけではありません。

ただ、そうはいっても、毎年各塾でこのようなデータを出すということは、ある程度の信憑性はあると思っておいたほうがいいでしょう。でなければ、模試で志望校判定を実施する意味がありませんよね。ちまたには「合格率30%からの逆転合格!」といったキャッチコピーがあふれていますが、わらにもすがる思いの親御さんにとって、そうした宣伝文句は大変魅力的に映るもの。信じたくなる気持ちはとても理解できます。

確かに、逆転合格はなくはありません。でも、それはもともと地頭の良かった子が、直前期に急にやる気スイッチが入ってメキメキと成績を伸ばしたとか、たまたま自分の得意分野の問題ばかりが出題されたとか、非常に限られた話であって、みんながみんな逆転合格できるわけではないのです。わずか数パーセントの可能性に期待するより、現実を直視し、今やるべきことに集中したほうが賢明でしょう。直前期はこうした情報に振り回されないためにも、「ママ友とは会わない」「SNSは見ない」など余計な情報をシャットアウトしたほうがいいと思います。

中堅校を狙うなら過去問を徹底的にやり込むのが吉

直前期に最優先すべきものは、志望校の過去問対策です。特にボリュームゾーンといわれる中堅校を狙う場合には、過去問のやり込みが合格の可能性を高めます。そういう学校では、学校説明会の際にも「過去問をしっかりやっておいてください」と伝えられることが多いでしょう。そのメッセージは裏を返せば「今年も同じような入試問題を出しますので、みなさんしっかり入試対策をしておいてくださいね」と入試内容を教えてくれているようなもの。素直に従うことが合格への近道となります。

第一志望群の過去問は、5〜10年分を2回転するくらいやり込みましょう。すると、その学校が毎年どんな問題を出すのか傾向が見えてきます。例えば女子中堅校で人気の吉祥女子中の社会入試では、毎年のように累進課税についての問題が出題されています。年によって問題の切り口は違うものの、頻繁に出題しているということは、「ここはしっかり勉強して来て欲しい」という学校の思いがあるからです。このように、入試過去問には各学校のメッセージが込められているのです。

一方、御三家と言われる難関校では、過去の問題(類題も含め)はほとんど出ることがありません。毎年、受験生を試すような新しい難問を出題します。そのため、中堅校のように過去問だけをやり込めばいいというわけではありません。もちろん志望校の過去問は重要ですが、開成中麻布中は年によって問題がガラリと変わるので対策が難しくなります。一方、駒場東邦中など首都圏トップの開成中に追いつこうとしている学校では、開成中の算数の過去問をやっておくと、似たような問題が出されることがあるので効果的です。

「納得感の高い中学受験」にしたいなら、併願校をしっかり吟味すること

11月〜12月はとにかく志望校対策に集中しましょう。それでも過去問でなかなか点数が取れないようなら、今一度受験校を見直す必要があります。憧れ校があきらめられないというのであれば、チャレンジしていいと思いますが、その場合は第二志望校以降を堅実校にしておくなど、強気な受験を避けるようにしましょう。この連載で何度もお伝えしていますが、「第一志望校に合格しなければ受験は失敗」という短絡的な考えではなく、「第一志望群(第一志望をはじめ、第二〜第四志望も含めた合格したら通いたいと思える学校)に合格できれば成功」と思っておくことが大事だと思います。長年、中学受験の指導をしてきて実感しているのは、中学受験で成功するご家庭は、併願パターンの組み方をよく練っていらっしゃいます。また「我が子には悔いなく挑んで欲しい」とチャレンジ校ばかりを並べるご家庭よりも、きちんと併願校を精査して入試に臨むご家庭の方が、たとえ進学先が第二志望や第三志望になったとしても、受験終了後の満足度は高いものです。

わずか11歳、12歳の子どもが挑戦する中学受験は最後まで何が起こるか分かりません。模試や過去問では点数が取れていた子が、当日過度に緊張してしまい、力を出し切れずに不合格になってしまうのはよくあることです。そこで自信を失い、調子が狂ってしまうと、最悪の場合、全落ちになってしまうこともあります。そうならないためにも、入試前半で確実に合格が一つ手に入れられるよう、実力よりも偏差値的には下でも校風が合っていれば受けてみるなど、ムリのない併願パターンを組んでおきましょう。そうやって一つでも合格を手に入れておくと、その後は安心してチャレンジすることができます。

一方、失敗してしまうご家庭は、偏差値の高さばかりにとらわれ、強気な受験をしてしまいます。上手くいかないと全落ちになるか、最後までなかなか決まらずようやく受かった学校にしぶしぶ行かせることになります。親の失望は子どもにも伝わります。長い受験生活が終わって、新生活が始まるというのに、親御さんの顔が曇っていては、お子さんも学校生活を楽しむことができません。「わが子の幸せのために」と選択した中学受験でそのような結果になってしまっては本末転倒です。

中学受験でお子さんの将来が決まるわけではありません。どうか偏差値の高さといった近視眼でお子さんを評価せず、「うちの子は、今はこのくらいの成績だけど、大器晩成型かもしれないわね」とおおらかな目で見てあげていただきたいのです。そのくらい力を抜いているご家庭の方が中学受験は成功しやすく、また将来的にも伸びていきやすいと感じています。

※記事の内容は執筆時点のものです

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