男子校への反発はなぜ起こる? 共学志向の芽生えとこれから|3年後の中学受験#3
コロナ禍、少子化、物価の高騰……社会経済の影響を受けて、刻々とその姿を変えていく中学受験。
どんな子どもでも小学6年生というタイミングで受験と向き合わなければならない以上、中学受験の「今」だけでなく、「今後、何が変わって、何が変わらないのか」について、保護者は見きわめておきたいもの。
多くの中学受験塾や保護者への取材を重ねてきたノンフィクションライターで、『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)の著者の杉浦由美子さんが、3年後を見据えて、中学受験のこれからを探る連載「3年後の中学受験」。
連載第3回目のテーマは「男子校」について。批判の対象になりやすい男子校について、その背景と「男子校の真実」を語っていただきます。
中学受験を取材していて、不思議に思うのは、男女別学でも女子校を批判する声は少ないのに男子校は批判の対象になりやすく、ネットでもしばしば話題となって炎上することです。
この春にもSNS上で男子校批判が盛り上がっていました。
最近のネット上だけはなく、もともとはアカデミックの分野でも、男子校批判は起きてきました。
社会学者の上野千鶴子さんは、東大の男子学生を保守的だと論じる流れで、「彼らの多くは中高一貫私立男子校の出身者」で、「『ホモソ』(ホモソーシャル・異性を排除した同性同士の絆)と言うと腑に落ちる男性集団がそこらじゅうにある。そういう集団で育ってきているせいか、女に対する妄想や偏見をいっぱい溜め込んでいる」とも発言しています(『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』大和書房・田房永子との対談本より)。
また、横浜国立大学教授の江原由美子さんは『男子校高校生の性差意識―男女平等教育の空白域』という男子校を疑問視する内容の論文を発表しています(2000年に刊行の『フェミニズムのパラドックス 定着による拡散』勁草書房に収録)。
このように、男女平等の視点から見て、男子校教育への批判には割と歴史があるのです。
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開成を蹴って渋幕! 男子受験生の間で芽生えはじめた共学志向
しかし、この「男子校批判」は、10年前までは、中学受験の世界には影響はありませんでした。
私が2013年に『女子校力』(PHP研究所)という本を出すために、中学受験事情を取材していたころ、女子に関しては共学志向が強まっていましたが、男子に関してはそういうトレンドはありませんでした。女子は校風を重視し、男子は偏差値で学校を選ぶという昭和から続く流れの中にあったからです。
ところがです。2022年に出版した『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)の取材の中では、ママたちや男子受験生の間に共学志向の芽生えがありました。共学校の男子の偏差値もあがってきています。
たとえば、2012年の日能研のR4(偏差値)では、渋谷学園渋谷は女子が63、男子が58でした。この時点で、渋谷学園渋谷は女子に関しては御三家(桜蔭、女子学院、雙葉)と並ぶ難易度でしたが、男子に関しては御三家(開成72、麻布68、武蔵63)よりもかなり下でした。
ところが2023年2月1日受験日の日能研R4結果(男子)を見ると、渋谷学園渋谷は68、開成72、麻布69、武蔵67で、男子御三家と同じレベルの偏差値になっています。
また、渋谷学園幕張や広尾学園といった共学校も偏差値を伸ばしています。
取材の中でも、開成に合格したけれど、渋谷学園幕張に進学した男子がいました。本人とママが共学を希望したとのことです。
そのママは「私は男子校を敬遠した」といいました。
「思春期に異性交流がないとゆがむ」ってホント?
ここには明らかに「思春期を男子だけで過ごさせることへの違和感」があります。
同じ男女別学でも、男子校と女子校の違いがここに出てきます。女子校の生徒の保護者は、娘が「異性との交流がないこと」を良しとする傾向があります。大切な娘にヘンな虫がつかないようにしたいという親心が動くのでしょう。
しかし、男子校の生徒に対しては「息子も女子校の文化祭にでも行けばいいのに」と、異性との交流がないことを心配する向きがあります。
そこには、先に紹介した上野さんがいうような「思春期に女性と交流がないと女性への偏見を溜め込む」という憶測に基づくストーリーがあるのでしょう。
ただ、それは先入観によって作られた過剰な物語にも思えるのです。上野さんが話の中で引用する江原由美子さんの論文は20年以上前のもので、今の若者を語るには少し古すぎるように見えます。
ジェンダー観の形成は学校ではなく家庭環境に由来する
とじる
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