中学受験ノウハウ 連載 発達障害&グレーゾーンの中学受験

#6 子供にグレーゾーンの特性が見えるなかで、どのように塾を選びましたか?―― 親子で乗り越えた、発達障害&グレーゾーンの中学受験

2019年7月11日 市川 いずみ

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発達障害&グレーゾーンの息子と中学受験に挑戦し、志望校合格を果たした市川家の中学受験録。どのように中学受験を乗り越えたのか、親子奮闘の軌跡をQ&A形式で聞きます。

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Question #6

子供にグレーゾーンの特性が見えるなかで、どのように塾を選びましたか?

Answer #6

子供の特性を踏まえ、「集団塾」以外にも「少人数指導塾」や「個別指導塾」も検討しました

3年生の春から塾のリサーチを開始

中学受験は、新4年生(3年生の2月から)のスタートにあわせて、3年生の秋から入塾テストが始まります。わたしは、息子が3年生になると同時に塾のリサーチを始めました。

集団塾以外も選択肢にいれる必要があった

まわりに中学受験を経験した友人がいなかったため、情報収集はインターネットの口コミや中学受験を経験された方のブログを参考にしました。

もし息子に発達障害の特性がなかったら、何も考えずに合格率の高い集団塾を選んでいたと思います。しかし入塾前は、息子にグレーゾーンの特性が垣間見えていた時期でした(※)。

わが家の塾選びは、親の意向だけではなく、息子の状態も踏まえて考える必要があったんですね。そこで「大手集団塾」だけでなく、「少人数指導塾」や「個別指導塾」についても検討しました。

息子の特性を踏まえ、塾を検討した

息子の特性、わたしが調べた塾の情報、塾の雰囲気を参考に、息子にあった塾について夫と話し合いました。

中学受験で検討した塾①:大手集団塾

大手集団塾は、蓄積されたノウハウ、データの豊富さ、カリキュラムの充実度が魅力でした。

しかし、わたし自身が中学受験の経験者で、大手集団塾で学んでいた経験から、「息子のように自分から動かない子は授業についていけないかも……」という心配がありました。

また、集団塾は1クラス20人以上の生徒がいることが多いため、「先生の目がすべての子に行き届かない」「丁寧に勉強のフォローをしてもらえない」といった懸念点をインターネットの口コミで目にします。

息子には以下のような心配事があったので、集団塾の懸念点を考えると、すぐに息子を預けることはできませんでした。

・気持ちの切り替えができない
・板書が苦手
・長時間の授業をずっと聞いていられないかも
・大量の宿題をやりこなせるか不安

ちなみに集団塾といっても、宿題が多かったり、熱血指導が売りだったり、和気あいあいとしていたり……など、塾ごとに雰囲気がちがいます。口コミをもとに、各塾の特徴についてリサーチを重ねました。

中学受験で検討した塾②:少人数指導塾

「少人数指導塾は面倒みがいいと聞くから、息子にあうかもしれない」と、わたしは考えるようになります。子供の競争心を刺激するちょうどよい生徒数、そして先生とコミュニケーションが取りやすいという点にも魅力を感じていました。

しかし口コミをみると、このようなことが気になりました。

・生徒の学力が1クラス内で差がある
・クラスごとに先生の指導力にばらつきが大きい

また、息子は周囲を気にしない傾向があったので、集団塾ほど生徒が多くない少人数指導塾では、「受験が近づいた6年生になってもマイペースで焦らないかも」という不安もありました。

中学受験で検討した塾③:個別指導塾

個別指導塾は、息子のペースにあわせてもらえること、勉強の理解不足を丁寧にフォローしてくれることに惹かれ、親の負担が減ることにも魅力を感じました。

一方で以下が気になり、入塾をなかなか決断できませんでした。

・4教科になると授業料が高い
・授業時間が短い
・講師の力量次第で成績が左右される
・息子の競争心が刺激されないかもしれない

息子の特性を冷静に考えた塾選び

塾の特徴のほかに、「通塾日数」「塾の場所」「1コマの授業時間」なども比較しました。また、小学校の友だちがいない塾を息子が希望したので、塾選びは車で通える範囲に広げることになります。

3年生のときの息子はグレーゾーンの状態でしたが、担任の先生が変わったことで友達とのトラブルは減っていました。不注意は多くありましたが、勉強面に関しては頭の回転がよく、「昆虫博士」と呼ばれるほど理科が大好きな少年に。今までは怒られてばかりいた子が、周りから一目置かれる存在になっていました。

家庭学習でも息子は勉強に対して前向きな時期だったので、「熱血指導で気合いを入れたら学力がさらに伸びるかも?」「まわりの子のレベルが高いほうが刺激を受けて成績が伸びるかな?」と、親としてこれからスタートする中学受験への期待を感じていました。

しかしわが家の場合は、やはり息子の特性を冷静に考えた塾選びをする必要がありました。

【塾選びで考慮した息子の特性】
・漢字の宿題ですらコツコツできるタイプじゃない
・得意科目には「ひらめき・集中力」を発揮するけどイヤなことから逃げるタイプ
・3年間という長い中学受験を突っ走り続けられるタイプじゃない

実際に塾関連のイベントに参加

塾が開催するイベントや全国テストに参加することで、ネットの口コミではわからない教室の雰囲気や塾の方針を知ることができます。

塾が開催するテストをいくつか息子が受けたことで、わたしは各塾の雰囲気を知ることができました。

息子と一緒に、低学年を対象としたある塾の「実験イベント」に参加したこともあります。イベントスタッフと塾生の様子や、質問をする生徒とそれに答える先生のやりとりが休憩時間に垣間見えたことで、校舎の雰囲気を知ることができました。

また、各塾の説明会は塾の違いを知ることができることもあり、情報の宝庫です。わたしは全国模試と同時に開催される保護者会、2月の入試直後に各塾で行われる入試報告会に参加しました。

多くの説明会では、「塾の宣伝」「合格実績」「入試傾向」「大学入試改革」について話があります。また以下のような話は、わが家の中学受験の方針について夫と話すキッカケになりました。

・なぜ中学受験が注目されているのか
・中高一貫校を目指す目的は何か
・子供たちにどう育ってほしいのか
・今の子供たちに求められることは何か

そして、説明会に参加したなかで、わたしは以下のような塾に惹かれました。

・家庭によって中学受験をする目的が違うことを認めてくれる
・偏差値競争だけの中学受験ではなく、子供にあった学校選びを一緒に考えてくれる

偏差値の幅がある、和気あいあいとした集団塾に決めた

夫婦で話し合った結果、合格偏差値の実績が幅広く、比較的和気あいあいとした大手集団塾に決めました。校舎によって雰囲気やカラーが違うことは懸念点でしたが、習い事と同じく塾も一期一会です。「息子に合わなかったら、またそのときに考えよう」と夫と話しました。

また、どの塾に行ったとしても親のフォローは必須です。わたし自身の負担、そして授業の進み方や宿題の量などを踏まえ、親子にとって通いやすい塾を選びました。

息子が通った大手集団塾はとても親身だった

息子は、「塾の先生の話が面白い!」「楽しい!」と、5年生の冬まではたくさんのことを塾で吸収していました。理科の先生をつかまえては家でできる実験を聞いてきたり、自分が興味あることを先生とおしゃべりしてきたり。先生や塾のスタッフの方を身近な存在として感じていたと思います。

大手集団塾だと「先生と距離があるのかな」と思っていましたが、困ったことや気になったことをとても相談しやすい環境で、息子のことも親身に見ていただきました。

「理想的な勉強ペース」や「心強い受験ノウハウ」に支えられた

息子が通っていた塾は、宿題が強制ではなく自己管理だったので、物足りなさを感じた子もいたかもしれません。しかし、「提出物に追われる」というプレッシャーがなかったことは、息子が塾を続けられた理由のひとつであったと思います。

また保護者向けの説明会や相談会もあり、大手ならではの中学受験ノウハウは、わたしにとって心強いものでした。

「二次障害」のときも塾に籍を置かせてもらった

息子が6年生のとき、発達障害の二次障害で気持ちの切り替えができず、苦しんだ時期がありました(※)。塾へ行くことができなかったため、中学受験をやめようか、個別指導へ変えようか、ものすごく悩みました。

塾を変えたからといって、息子が気持ちを切り替えられるかわかりません。「転塾をして心機一転」と思ったもののペースが狂い、後悔したというご家庭のケースも耳にしました。

そして、二次障害で苦しんでいた息子は「塾が理由じゃなくて、自分のやる気がでないだけ。今の塾で受験がしたい」と言い続けていました。

ほかの子は前に向かって進んでいるのに、わが家は立ち止まったまま……。そんな状態でしたが、塾に迷惑をかけつつも、息子の状況をお話して塾に籍を置かせていただくことにしました。そんなわたしたち親子に、ほどよい距離感で対応してくれた塾に、本当に救われました。

親としてできる限りのことをしたいと思っても、塾に通う子供の気持ちや塾との相性は、すぐにはわかりません。塾選びは本当に難しいと感じます。また同じ塾でも、校舎によって対応は様々と聞きます。

しかし、ここまで親身に対応いただけた校舎にわが家がめぐり合えたのは、ただただ運がよかったものと思っています。

6年生の夏休みに国語の個別指導を利用した

息子は、国語が苦手でした。記述の解答用紙は真っ白で、いつも平均点に届かないほどです。
息子の通っていた集団塾は細かいフォローはなく、わからないところは自分から質問に行くスタイルでしたが、息子は塾の先生に質問するどころか「国語の授業は行きたくない」と言い出します。

そこで、6年生の夏休みに国語の個別指導を利用することにしました。息子は「わかりやすい」と言っていましたが、先生1人につき生徒が2人だったため、指導に手薄感がありました。

先生が1人の子に対応しているあいだ、息子は問題を解いているそうです。しかし、問題を解き終わっても先生を待つことがあるなど、結果として期待したような指導ではありませんでした。

個別指導で思うように効果があがらなかったのは、すぐに効果があらわれないという国語の特性と、息子が国語に強い苦手意識があったことも理由かと思います。

個別指導を利用するならば、料金が高くなりますが、先生1人につき生徒1人のところにするべきだったな、と感じました。

長い中学受験勉強のあいだに状況は変わる

4年生から中学受験をスタートした場合、3年間という長いあいだ受験勉強に臨むことになります。もちろん、そのあいだに状況は変わります。

【中学受験勉強のあいだに変わること】
・子供のモチベーション
・子供の成績
・塾への信頼感
・塾のスタイル
・先生との相性
・友だちとの関係

入塾した塾が絶対ではないと思います。子供に期待してレベルが高い塾へ通わせたけどついていけないことがある一方で、塾を変えたことでノビノビ勉強できて成績がアップした、というケースも聞きます。また、集団塾では委縮してしまう子が、地元密着型の少人数指導で実力を発揮するケースもあります。

息子は、6年生から気持ちの切り替えが突然できなくなり、塾に行けなくなりました。「本当に中学受験をする気がありますか?」と塾から思われても仕方がない状況です。「このままお子さんのやる気が出ないのであれば受験を考え直してみても……」と、子供の状況に向き合ってもらえない塾もあると耳にしていました。

まわりの子たちは、真剣に受験に向かっています。そのなかで、「ウチは何をやっているんだろう」と何度も思い、もどかしい気持ちのなかで塾の保護者会に参加したこともあります。

わが家のペースで中学受験に臨むことに

しかし、息子は中学受験を希望していました。そこで、「塾は息子が行けるときに行く」「塾で配布されるプリントは自宅でやる」「過去問は出来たものだけ提出する」など、わが家のペースでやるという方針を決め、不安な気持ちに区切りをつけました。

そして「みんなと同じようにしなきゃ」という焦りから、塾のスケジュールを何とかこなし、提出物をとにかく出すことに必死になっていたわたし自身を反省します。

また、塾のカリキュラムをベースに、勉強が不足しているところは家庭でフォローするしかない、と考えを切り替えました。転塾も視野に入れるべきではありましたが、当時の息子は不登校にもなっていたので、わたしには転塾をするエネルギーがありませんでした。

塾に通うことに不安材料があったので、家庭学習だけで受験を乗り越えることもひとつの方法だったと思います。しかし、ずっと親子で一緒にいることは、息子がさらに引きこもる原因になってしまうかもしれない、という不安がありました。

また、わたし自身の負担を考えると「家庭学習だけ」というのは恐ろしく、通塾以外に選択肢がありませんでした。

そのため、塾に籍を残しつつ、息子がやる気を出したときに塾へ行く、という方針を塾にご理解いただけたのは、わが家にはとても助かりました。

※記事の内容は個人の経験談です


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※記事の内容は執筆時点のものです

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