中学受験ノウハウ 連載 発達障害&グレーゾーンの中学受験

#8 中学校選びで気をつけたこと、考えたことは何ですか? ―― 親子で乗り越えた、発達障害&グレーゾーンの中学受験

2019年8月08日 市川 いずみ

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発達障害&グレーゾーンの息子と中学受験に挑戦し、志望校合格を果たした市川家の中学受験録。どのように中学受験を乗り越えたのか、親子奮闘の軌跡をQ&A形式で聞きます。

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Question #8

中学校選びで気をつけたこと、考えたことは何ですか?

Answer #8

通学時間、校風を踏まえつつも、最終的には息子の意志を最大限尊重して学校を選びました

息子に凸凹タイプの特性があることを知ってからは、息子が気に入った学校、親が気になるポイントを検討しながら学校選びを行いました。

「偏差値」だけでは志望校は決められなかった

「凸凹タイプでIQが高く、得意科目がある子は、偏差値が高めの学校のほうが刺激ある学校生活を送れますよ」と、息子の発達障害でお世話になった病院の先生をはじめ、アドバイスを受けたことが度々ありました。

しかし、行きたい学校を熱望していても、子供の成績や偏差値によって、チャレンジできる学校はある程度決まってきます。わが家では、息子の模試結果を参考に、慎重に受験校を選んでいきました。

また、やるべきことから逃げてしまう息子の特性、気持ちの切り替えができずに苦しんでいる息子を見ていると、偏差値だけを軸に志望校は決められないな、とも思っていました。

受験回数を減らすため、大学附属校を希望していた

息子のタイプから、できれば人生のなかで受験回数を減らしてあげたいと思っていたので、大学附属の私立中学を希望していました。

しかし、大学名がついている中高一貫校といっても、内部進学ができるとは限らなかったり、他大学へ進学することがメインだったり、内部推薦でもレベルが高かったり、系列の学校によって進学できる割合が異なったり……と、実情はさまざまです。わが家からの通学距離を考えると、大学附属の学校数がそもそも限られてしまうこともあり、大学附属校に関しては深く考えず、息子の希望に任せることにしました。

通学時間ができるだけ短い学校を探した

通学に関しては、自宅から60分以内で、通勤ラッシュをなるべく避けた電車に乗れる学校を探しました。ただでさえ我慢することが苦手な息子は、通学で疲れてしまったらまた逃げてしまうかも……という不安があったからです。

「地元の中学じゃなくて、私立中学に行くということは、電車やバスに乗るってこと。時間を守らないと、電車は待ってくれないからね!」と、息子に口酸っぱく言っていました。「時間を守るのはわかってる。もし合格したら、行かなきゃもったいないし」と息子は言っていたので、私立中学進学を機に、何かがすこし変わるかなという期待がありました。

実際に中学生になった息子を見ていると、まだ慌てて準備することはありますが、遅刻をしてはいけないと自覚し始めているようです。小学生のときのように遅刻したり、嫌なことから逃げてしまったりしたら……という不安は、いまでは安心に変わっています。

男子校をすすめられたが、親の本音は共学校だった

「お子さんのようなタイプは、周囲を気にせず、のびのびと過ごせる男子校のほうが向いています」と、塾の先生からアドバイスを受けたことがありました。たしかに息子の居心地の良さを考えたら、男子校がよいことは理解できました。

一方で、考えすぎかもしれませんが、母親として心配だったのは、「相手の気持ちをわかろうとしない」「マイペースでわが道を行く」「精神年齢が低い」という傾向がある息子が、「女の子の気持ちをわからないまま中高を過ごして大丈夫かな……」ということです。

「年頃になれば、女の子の気持ちを意識するようになるよ」と、まわりからは言われましたが、わたしとしては「女の子の気持ちがわかる子になってほしい!」という想いもあり、男子校ではなく、共学校を希望していました。

“バランスの取れた校風”の学校を探すのに苦労した

校風に関しては、「自主性を重んじる」という学校方針を掲げている中学校に惹かれていました。規律が厳しい学校だと、息子が息苦しくなって逃げてしまうかも、という不安があったからです。しかし、「言われないとわからない、気がつかない」「提出物やモノの管理が苦手」という息子の特性を鑑みると、自主性にまかせていたら何もできないかも……、という不安も抱えていました。

【思い描いていた校風】
・学校行事は楽しむけど、勉強もしっかりやる
・ある程度自由だけど、先生は見守ってくれている
・逃げる子をつくらない
・親身に面倒を見てくれる

発達障害の子をもつ親として、子供がイキイキと過ごせる”バランスのとれた校風”の学校を探すのは、非常に苦労しました。

文化祭や受験相談会で「学校の内側」を知ることができた

各学校のホームページを見ると、「学校の外枠」はよくわかります。しかし、わたしとしては「学校の内側」のほうに関心がありました。

そこで、私立中学の雰囲気を息子に知ってもらうことも兼ねて、親子で文化祭に行きました。学校の雰囲気、部活、設備、生徒の方たちの対応から、息子は私立中学に魅力を感じたようです。

また、中学校が集まる受験相談会も、学校選びの役に立ちました。不安に感じていることを学校の先生に直接質問できたことで、ホームページではあまり見えてこない学校の姿を見ることができました。

ちなみに、「息子のようなタイプにはどのような対応をされていますか」と受験相談会で聞くと、難色を示す学校もありました。一方で、「不登校になるような子はいないですよ。子供は、自分で折り合いをつけて成長していきますよ」と、心強いアドバイスをくれた学校もあります。このように希望が持てる対応をしてくれた学校は、親として非常に安心できたので、志望校の候補に入っていきました。

大学進学の実績や勉強量は、参考程度に留めた

学校選びでは、「国公立大学に○名合格」といった大学の進学実績に注目することもありますよね。「面倒みが良く、大学受験に対応できるほどの学力をつけてくれる」「”入口偏差値”より”出口偏差値”が高いとお得な学校」といわれる学校もありますが、そのような学校は宿題や課題が多くなり、「勉強重視」を徹底していると聞いたこともあります。

宿題を出してくれないと子供が勉強しない可能性があったり、先生によって勉強への熱の入れ方に違いもあったりするので、わが家も「学校の勉強量」という点で悩みました。しかし、学校の生活に慣れてしまえば、「勉強量はこれが普通なのかな」と子供が思うと考え、志望校選びでは勉強量に関してはあまり重視しませんでした。

勉強量が気になる場合は、受験相談会などで先生に聞いてみると、課題やテストの頻度、補習など、学校ごとの傾向がわかることがあります。

「今の不安」より、「進学後の期待」に目をむけるようにした

息子が少しでも過ごしやすい中学校を探そうと、受験候補の学校は可能な限り下調べをしました。しかし、私立中学に進学して息子の凸凹タイプがどうなるか、小学校のときより良い方向へ変わるか、思っていた環境と違ったら逃げてしまうか……、こればかりは、実際に進学してみないとわかりません。

そこで、先が見えない不安のなかで色々考えるより、入学した学校の友人や先生との出会いのなかで、息子が大きく変わることに期待することにしました。息子が頑張っても学校に適応できなかったならば、そのときにまた道を考えようという気持ちでいました。

最終的に、子供の意志を尊重して学校を選んだ

息子の二次障害が6年生の春に悪化し、受験校選びどころではなくなった時期もあります。中学受験を本気でやめようと思ったこともありましたし、息子の成績が振るわなかったので、わたしが勝手に志望校を変更しようとしたこともありました。

しかし、どんなときも、「中学受験はやめない。行きたい学校を受けさせてほしい」と息子は言い続けていました。

「お子さんの意思を尊重してください。親が勝手に志望校を決めたら恨まれますよ」と、なかば冗談交じりで塾から言われたこともあります。正直、息子の成績を考えると、「本当に受かるのかな?」といった気持ちでハラハラして不安でしたが、親のわたしが腹をくくることが、結局は息子のためになることだと思うようになりました。

わが家の志望校選びは、「なんとなく」で済むものではありませんでした。なるべく不安要素が少ない学校を選ぶこと、偏差値よりも子供の特性にあった校風の学校を選ぶことなど、考えることは非常に多かったです。

しかし、子供の意志を最大限尊重した結果、親子で「行きたい!」と思える学校に出会うことができました。今となっては、目標校ができたことで息子は中学受験を頑張ることができ、志望校に合格できたのかな、と考えています。

※記事の内容は個人の経験談です


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※記事の内容は執筆時点のものです

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