中学受験ノウハウ 連載 発達障害&グレーゾーンの中学受験

#14 母親としてどんな葛藤があり、どうやって気持ちを切り替えていましたか?―― 親子で乗り越えた、発達障害&グレーゾーンの中学受験

2019年10月09日 市川 いずみ

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発達障害&グレーゾーンの息子と中学受験に挑戦し、志望校合格を果たした市川家の中学受験録。どのように中学受験を乗り越えたのか、親子奮闘の軌跡をQ&A形式で聞きます。

#0はじめまして ─── 著者(市川いずみ)の自己紹介

Question #14

母親としてどんな葛藤があり、どうやって気持ちを切り替えていましたか?

Answer #14

何度も逃げ出したいと思いましたが、親子の将来のことを考え、前向きになるように努力していました

育児をしていれば、思うようにいかないことへのイライラ、不安などを感じることがあるかと思います。わが子が生まれてきてくれたことに感謝していたあの頃をすっかり忘れ、ほかの子と比較してしまったり、親自身に心の余裕がなくなってしまったり……。

わが家の息子は幼いときから手が掛かり、「ほかの子と何か違う」「トラブルも多いし、子育てってこんなに大変なの?」とずっと悩んできました。そして息子に発達障害があることがわかり、二次障害も重なって、わたしの不安と葛藤は増すことに……。公立中学の内申書に不安があったため、中学受験の道を選ぶことにしましたが、小学校や塾へ行くことができない息子の状況に戸惑い、中学受験を続けるか何度も迷いました。行動が伴っていないのに「受験をしたい!」と言う息子を、素直に応援できなかったことも……。

そんな中学受験を送ってきたなかで、母親として何を感じてきたか、またどうやって気持ちを切り替えてきたのか、といったことをお伝えします。

気分転換することを意識した

息子が不登校気味の時期は、働くこともできず、息子の対応に困惑していた日々を送っていました。「今日は学校へ行くのかな? 塾へ行くかな?」という不安やイライラを抱えながらも、「今日は穏やかに過ごそう」と決めたことは少なくありません。しかし、あっという間にイライラに逆戻り……。わたしのなかのモヤモヤが解消されることはほとんどなく、毎日が過ぎていきました。

しかし、「わたしにも楽しみがないと息子のことばかり考えてしまう」と思い、ときには映画を見たり、友人とランチをしたりしていました。主人がお休みのときは、一緒にちょっと遠くまで出かけることも。解決策は見つからなかったとしても、だれかと話をすることで、わたし自身の気持ちを少しだけ前向きにすることができました。

息子の対応は主人と役割分担

息子への対応は、わたし一人でしていたわけではありません。塾の面談は夫婦で参加し、子育て、中学受験のことも主人と話し合っていました。夫婦の方向性は同じでしたね。

また、「両親vs.息子」にならないように、夫婦の役割分担を話し合っていました。たとえば、わたしと息子が言い合いになってしまったときは、父親の出番。また、息子が2歳下の妹にちょっかいを出してしまうときは、息子は主人に任せ、わたしと娘は息子から距離を置くことも。わたしと息子のあいだに主人が入ることで、息子と落ち着いて話し合うことができました。

「親の対応が変われば子供も変わる」という大きな気づきをもらった

これまで、「手がかかる子に対して親ができる対処法」といったような育児書を何冊も読んできました。本を読むと、「わたしの対応が悪い部分もあるな」という気づきがあり、そのときは本に書いてあったことに取り組んでみようと思うのですが、なかなか上手くいきません。息子の行動が、育児書に書いていないようなことばかりだったからです。わたし自身の忍耐力もありませんでした。

しかし、「親子のコミュニケーションの取り方を学べる講座」に参加したことで、わたし自身の考え方が大きく変わりました。「親の対応が変われば子供も変わる」といったことを、真剣に考えるきっかけになったんですね。第三者のアドバイスは、自分にとってなかなかしっくりこないこともありますが、わたしのなかではこの講座に参加したことで大きな気づきをもらえました。

わたしは息子への接し方が悪いと思ったときには息子に謝っていましたが、いま思うと、しっかり息子の話を聞いて、息子の考えをもっと受け止めてあげるべきだったなと、自分の未熟さを感じています。

両親のアドバイスが励みになった

わたしの両親、息子からすると祖父母も、息子の様子を心配していました。そこで、「息子が発達障害であること」を話したんです。わたし自身、「発達障害」という言葉に抵抗を感じていました。「認めたくない」と思う人も、なかにはいると思います。両親もはじめはびっくりしたと思いますが、「志望校を変える! 中学受験をやめる!」とわたしが言っていたとき、「本人はなんと言っているんだ? 親が覚悟を決めなきゃいけないよ。自分の子なんだから、信じてあげなよ」と励ましてくれました。「前へ進もうよ」という両親のアドバイスは、“逃げモード”になっていたわたしの背中を力強く押してくれるものでした。

「もう逃げたい」と思ったことは、少なくなかった

発達障害の息子を抱えながら中学受験に奔走していたときは、本当に色々な気持ちが心に浮かび、さまざまな考えが頭をよぎりました。「わたしが前向きでいなきゃ」と思いつつも、自問自答し、「もう逃げたい」と何度も思いました。

当時考えていたことは、以下のようなことです。

・逃げることはラクかもしれない。でも、このままじゃ状況はよくならない
・将来のことを考えたらなんとかしなきゃ……
・息子が二次障害で苦しんでいるのは、わたしのせいかもしれない
・わたしがまずは変わらなきゃ……
・息子が良い状態になれば、受験勉強も変わるかもしれない
・同じ境遇の人はいないかな?
・わたしと息子の考え方が違うことを、わたしが受け入れないとダメ。息子は理想や型にはまるタイプじゃない
・娘には、こんな母親の姿を見せてはダメだと反省(いずれ娘が親になるとき、不安を感じさせてしまう)
・兄妹で仲良くしてほしい。そのために、子供の接し方にバランスを考えないと
・息子の状態がよくなれば、わたしのもとに戻ってくるのかな。一緒に笑い合える未来が見てみたい

中学受験を経た今だから想うこと

息子は長男で、わが家で最初の子。しかも、高い知能指数がありつつも、心のコントロールが苦手な発達障害をもった子。そのため、子育てにずっと戸惑ってきました。また、母親のわたし自身、これまで怒られないように、空気を読みつつ生きてきました。そのため、息子に理想を押しつけることも……。でもそれでは、親子ともに苦しいわけですよね。

しかし、中学受験を経るなかで、息子のことをよく知ることができました。中学受験の志望校も、偏差値だけではなく、息子に合った校風の学校を選んでよかったと思っています。

息子が6年生のときの1年間は、わたしにとって、泣いて、落ち込んで、前向きになって、息子にカァ~ッとなって……、我慢することもあれば、失敗も繰り返した日々でした。目まぐるしく過ぎていった毎日でしたが、「親が変われば子供も変わること」を実感した1年でもありました。

当時の経験は、いまとなっては息子との会話にのぼり、笑い話にもなりました。中学生になった息子には成長が感じられ、わたし自身も多少のことでは動じなくなった気がします。

子供と正面からぶつかり合うのではなく、まずは話を聞いてあげること。そして、お母さん自身が1人で思い詰める必要はないこと。中学受験からは、本当に色々なことを学びました。中学受験を経験して親子の結びつきが強まったかな、と思っています。

※記事の内容は個人の経験談です


■「親子で乗り越えた、発達障害&グレーゾーンの中学受験」バックナンバー

※記事の内容は執筆時点のものです

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