
#4 わが子が「二次障害」になったときに、どう対応しましたか? ―― 親子で乗り越えた、発達障害&グレーゾーンの中学受験
発達障害&グレーゾーンの息子と中学受験に挑戦し、志望校合格を果たした市川家の中学受験録。どのように中学受験を乗り越えたのか、親子奮闘の軌跡をQ&A形式で聞きます。
Question #4
わが子が「二次障害」になったときに、どう対応しましたか?
Answer #4
息子を変えるより、母親であるわたしの考え方を変えました
Contents
息子が「無気力」になってしまった
5年生の冬休みまでは、ゲームやテレビを息抜きに塾の勉強を頑張っていた息子でしたが、冬休み明けに大きく様子が変わってしまいました。学校や塾へ行きたがらず、人が変わったように無気力になっていったんです。
中学入試の本番まであと1年という時期のことでもあり、わたしはとても焦り、戸惑いました。
息子の行動が理解できず、イライラが増える毎日
「無気力」の息子は、朝の寝起きが悪く小学校に遅刻、塾に行く時間になっても支度をしない、声をかけても動かない、勉強もほぼやる気がない……。
「ゲームをやりたいから」「テレビを観たいから」という理由で勉強をサボりたくなるなら、息子の行動はまだ理解できます。しかしそういったことでもなく、息子はひたすらベッドでゴロゴロし続けていました。
息子の行動が理解できず、わたしはイライラが増えるばかり。なんとか息子を動かそうと、「時間がもったいないよ!」「いつまでゴロゴロしているの?」と言い続けていました。
気分の落差が激しい息子に振り回される
息子はついに部屋に閉じこもりがちになり、布団から出ない日が増えました。しかし、遅刻をしながらでも小学校へ行かせると、元気な様子で帰ってきます。
わたしは息子に無理をさせず、様子をみることにしました。息子の気分次第、または好きな教科のときだけ塾に行かせ、家庭学習も好きな教科だけをさせました。
その当時の息子は気分の落差が大きく、機嫌がよいときもあれば、イライラしたり無気力になったりする日もある繰り返し。妹に八つ当たりをする息子を注意して、親子でバトルになることもありました。
何が原因なのかまったくわからず、「話し合いをしよう」と息子に声をかけますが、「お母さんの話なんて素直に聞くもんか」という態度をとられる始末。このときは、親子関係がかなりこじれていた時期です。
息子について何度も夫と話し合い、中学受験をやめようと考えました。
息子の本音は「中学受験をしたい」
息子の様子をみる限り、「中学受験を本当はしたくないのかな?」「親に中学受験をやめたいと言えないだけ?」と思っていました。
「そんなに苦しんでいるなら、中学受験はやめて楽しく小学校生活を送ってほしい。受験をすることがすべてではないし、今までのことがムダでもない。まずは子供らしくいてくれるだけでいい」という親の想いもありました。
しかし、息子の本音はまったく違うものでした。
「塾は楽しいし、行きたい中学校もあるから受験はやめたくない。塾も小学校も、行かなきゃいけないことは知ってる。でも、疲れたから行きたくない日もあって。まえみたいに、勉強する気になれないんだ」
これは、予想外の答えでした。「そんなに悩んでいるのに、まだ中学受験をしたいの?」と何度も確認しました。しかし、息子の返事はいつも同じ。「中学受験をしたい」の一点張りでした。
塾を休ませることに決めた
わたしたち夫婦は、塾を休ませることを決めました。新6年生の春のことです。
塾も勉強も中途半端で、日々の生活を送ることすら辛そうだったからです。塾を休むことで環境が変わり、元気を取り戻したあとに「中学受験をしない道」を息子が選んだときは、塾をやめようとも考えていました。
しかし、塾を休んでいるあいだ、息子はゲームをするわけでもなく、勉強をするわけでもなく、手持ち無沙汰のような様子で毎日を過ごしていました。
わたしの考え方が大きく変わったきっかけ
一方で、わたしは息子との関わり方に悩んでいました。「このままではいけない。わたしが動かないと息子は変わらない。でも、どうしたらいいんだろう……」。そんなとき、親子のコミュニケーションの取り方を学べる講座があることを知ります。
「親子の中学受験」をテーマに、社会人や大人同士でも使える「コミュニケーションを豊かにする方法」を学べる講座です。
・中学受験の勉強のなかで親子の関わりが強くなる理由
・子供はまだ小学生で、自分で決断・行動に移せない
・親子ともにプレッシャーがあり、親子バトルになりやすい
・子供の気持ちがわかる質問の方法
・子供に伝わる親の気持ちの話し方
講座の内容は、まさに当時のわたしが知りたかったことでした。「何かが変わるキッカケになるかもしれない」という期待を抱き、ワラにもすがる気持ちで受講しました。
この講座で学んだことが、私の考え方を大きく変えることになります。それは、「親の対応が変われば子供も変わる」ということです。
わたしが息子にしてきたことは、「子供にしてはいけないパターン」に当てはまっていたことがわかりました。発達障害の息子の状態を、完全に悪化させてしまう接し方をしていたんです。
息子への接し方に気をつけると、変化がみられるように
息子の話は聞くようにしていたつもりでしたが、「お母さんに言ってもすぐ言い返してくる」と、息子に痛いところをズバリと突かれたことも思い出します。講座を受講したあと、わたしは息子への接し方や話し方に気をつけました。
・息子をひとりの「個人」として接し、共感する
・息子がどんな意見を言おうと、頭ごなしに否定しない
・息子の状態をみつつ、行動することを無理やり促さない
親子で言い合いをするのではなく、「息子にどうしていきたいか」を考えさせるようにしました。毎日の過ごし方が良いものになるように、少しずつですが息子に働きかけていったんです。
すると、息子のなかの”凍った氷のカベ”が溶けてきたのか、トゲトゲした態度が変わってきました。
息子にみえた変化は、以下のとおりです。
・部屋への引きこもりがなくなった
・息子にとって都合の悪い話でも逃げなくなった
・妹へのちょっかいが減った
・悪いことは悪いと、自分で認めるようになった
・自分の考えや気持ちを言うようになった
時間やモノの管理は相変わらず苦手でしたが、精神面では大きな成長が感じられました。そして息子は、塾に通い始めます。
ゆっくりとしたペースではありますが、わが家は中学受験に向けて再び進んでいくことになりました。
二次障害は、「周囲の無理解」が大きな要因
あとから知ったことですが、当時の息子は思春期以降に起こりやすい「二次障害」(※)を発症していたようでした。
二次障害の症状は、発達障害ではない子供にも起こるといわれていますが、いま思うと息子に当てはまる項目がいくつもありました。
※「二次障害」:発達障害の特性を理解してもらえず、過剰なストレスや自信喪失により引き起こされる二次的な障害。一般的に、身体症状、精神症状の悪化、不登校、ひきこもり、暴言・暴力などがあり、思春期以降に現れやすくなるといわれています
子供を変えるより、親が変わる
息子が「無気力」になった当時を振り返ると、息子にとって最も身近な存在であるはずの母親のわたしが、息子の症状を悪化させてしまっていたように思います。
「登校拒否」「塾に行かない」「中学受験はしたいのに勉強をしない」という息子の行動が理解できず、「ただのわがまま」「逃げているだけ」と決めつけてしまっていました。「ほかの子が当たり前に進めるレールから外れてはいけない」「レールに戻さなくちゃ」というわたしの勝手な想いが、親子関係を悪化させていたんですね。
息子を苦しめていたと思うと、ものすごくショックでした。
二次障害の発症は、「周囲の無理解」が要因といわれています。わたしは、まさに息子を理解できていませんでした。
そして息子が変わったのは、「息子を変えようとする」のではなく、「わたし自身が変わること」の大切さに気づけたことが大きかったと思います。
親の威厳をふりかざしても、言葉で応戦しても、力技で動かそうと思っても、子供は殻に閉じこもる一方です。子供は、両親に自分の気持ちをわかってほしいだけなんですね。
・一切否定せず、子供の話を聞いてあげる
・子供に共感してあげる
・子供に無理をさせない
この3つを意識したことで、広がっていた息子との距離を縮めることができたように思います。
子供と一緒に、親も成長する
わたしは親でありつつも、ひとりの人間なので、子供への接し方をすぐに変えることが難しかったり、つい本音が出てしまったりすることもあります。しかし、いまでは「お母さん、またもとに戻ってるよ」と、息子に笑って言われるくらいになりました。
発達障害について十分な理解ができていなかったことで、息子につらい思いをさせてしまったことを、今でもとても後悔しています。息子の症状がわたし自身のせいだと、自分を責めていた時期もあります。何が正解かわからず、そのとき、そのとき、目の前のことに必死な毎日を過ごしていました。
そんな大変な時期を振り返って思うことがあります。子供がつらそうな表情をするのも、子供を笑顔にするのも、すべて親次第ということです。
わたしも痛感していますが、子育ては親の想い通りにいきません。しかし、子供の個性を理解して、その子にあわせた接し方が必要なんですよね。
子育ては大変ですが、大切なわが子と笑って過ごせることが一番です。
わたしもまだまだ子供と一緒に成長しなきゃ、と思っています。
※記事の内容は個人の経験談です
■「親子で乗り越えた、発達障害&グレーゾーンの中学受験」バックナンバー
- #15 中学受験を経験してどんな気づきを得られましたか?
- #14 母親としてどんな葛藤があり、どうやって気持ちを切り替えていましたか?
- #13 私立中学に入学したあとの子供の様子はどうですか?
- #12 入試直前や当日の子供の様子はどうでしたか?
- #11「子供の意識が変わったな」と思ったタイミングはありますか?
- #10 中学受験勉強中のテレビやゲームはどうしていましたか?
- #9 子供が苦手なことに対して、どんな対策をとりましたか?
- #8 中学校選びで気をつけたこと、考えたことは何ですか?
- #7 子供の勉強のやる気がでないときに、どうやって勉強のモチベーションを上げていたんですか?
- #6 子供にグレーゾーンの特性が見えるなかで、どのように塾を選びましたか?
- #5 子供の「特性」はどうやってわかりましたか?
- #4 わが子が「二次障害」になったときに、どう対応しましたか?
- #3 グレーゾーンの状態で中学受験を決めた理由は何ですか?
- #2「子供が発達障害かも」と思ったとき、教育相談や専門病院に行きましたか?
- #1 子供に発達障害の特性があることは、どの段階でわかりましたか?
- #0 はじめまして
- #14 母親としてどんな葛藤があり、どうやって気持ちを切り替えていましたか?
※記事の内容は執筆時点のものです
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