中学受験ノウハウ 連載 発達障害&グレーゾーンの中学受験

#4 わが子が「二次障害」になったときに、どう対応しましたか? ―― 親子で乗り越えた、発達障害&グレーゾーンの中学受験

2019年7月01日 市川 いずみ

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発達障害&グレーゾーンの息子と中学受験に挑戦し、志望校合格を果たした市川家の中学受験録。どのように中学受験を乗り越えたのか、親子奮闘の軌跡をQ&A形式で聞きます。

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Question #4

わが子が「二次障害」になったときに、どう対応しましたか?

Answer #4

息子を変えるより、母親であるわたしの考え方を変えました

息子が「無気力」になってしまった

5年生の冬休みまでは、ゲームやテレビを息抜きに塾の勉強を頑張っていた息子でしたが、冬休み明けに大きく様子が変わってしまいました。学校や塾へ行きたがらず、人が変わったように無気力になっていったんです。

中学入試の本番まであと1年という時期のことでもあり、わたしはとても焦り、戸惑いました。

息子の行動が理解できず、イライラが増える毎日

「無気力」の息子は、朝の寝起きが悪く小学校に遅刻、塾に行く時間になっても支度をしない、声をかけても動かない、勉強もほぼやる気がない……。

「ゲームをやりたいから」「テレビを観たいから」という理由で勉強をサボりたくなるなら、息子の行動はまだ理解できます。しかしそういったことでもなく、息子はひたすらベッドでゴロゴロし続けていました。

息子の行動が理解できず、わたしはイライラが増えるばかり。なんとか息子を動かそうと、「時間がもったいないよ!」「いつまでゴロゴロしているの?」と言い続けていました。

気分の落差が激しい息子に振り回される

息子はついに部屋に閉じこもりがちになり、布団から出ない日が増えました。しかし、遅刻をしながらでも小学校へ行かせると、元気な様子で帰ってきます。

わたしは息子に無理をさせず、様子をみることにしました。息子の気分次第、または好きな教科のときだけ塾に行かせ、家庭学習も好きな教科だけをさせました。

その当時の息子は気分の落差が大きく、機嫌がよいときもあれば、イライラしたり無気力になったりする日もある繰り返し。妹に八つ当たりをする息子を注意して、親子でバトルになることもありました。

何が原因なのかまったくわからず、「話し合いをしよう」と息子に声をかけますが、「お母さんの話なんて素直に聞くもんか」という態度をとられる始末。このときは、親子関係がかなりこじれていた時期です。

息子について何度も夫と話し合い、中学受験をやめようと考えました。

息子の本音は「中学受験をしたい」

息子の様子をみる限り、「中学受験を本当はしたくないのかな?」「親に中学受験をやめたいと言えないだけ?」と思っていました。

「そんなに苦しんでいるなら、中学受験はやめて楽しく小学校生活を送ってほしい。受験をすることがすべてではないし、今までのことがムダでもない。まずは子供らしくいてくれるだけでいい」という親の想いもありました。

しかし、息子の本音はまったく違うものでした。

「塾は楽しいし、行きたい中学校もあるから受験はやめたくない。塾も小学校も、行かなきゃいけないことは知ってる。でも、疲れたから行きたくない日もあって。まえみたいに、勉強する気になれないんだ」

これは、予想外の答えでした。「そんなに悩んでいるのに、まだ中学受験をしたいの?」と何度も確認しました。しかし、息子の返事はいつも同じ。「中学受験をしたい」の一点張りでした。

塾を休ませることに決めた

わたしたち夫婦は、塾を休ませることを決めました。新6年生の春のことです。

塾も勉強も中途半端で、日々の生活を送ることすら辛そうだったからです。塾を休むことで環境が変わり、元気を取り戻したあとに「中学受験をしない道」を息子が選んだときは、塾をやめようとも考えていました。

しかし、塾を休んでいるあいだ、息子はゲームをするわけでもなく、勉強をするわけでもなく、手持ち無沙汰のような様子で毎日を過ごしていました。

わたしの考え方が大きく変わったきっかけ

一方で、わたしは息子との関わり方に悩んでいました。「このままではいけない。わたしが動かないと息子は変わらない。でも、どうしたらいいんだろう……」。そんなとき、親子のコミュニケーションの取り方を学べる講座があることを知ります。

「親子の中学受験」をテーマに、社会人や大人同士でも使える「コミュニケーションを豊かにする方法」を学べる講座です。

・中学受験の勉強のなかで親子の関わりが強くなる理由
・子供はまだ小学生で、自分で決断・行動に移せない
・親子ともにプレッシャーがあり、親子バトルになりやすい
・子供の気持ちがわかる質問の方法
・子供に伝わる親の気持ちの話し方

講座の内容は、まさに当時のわたしが知りたかったことでした。「何かが変わるキッカケになるかもしれない」という期待を抱き、ワラにもすがる気持ちで受講しました。

この講座で学んだことが、私の考え方を大きく変えることになります。それは、「親の対応が変われば子供も変わる」ということです。

わたしが息子にしてきたことは、「子供にしてはいけないパターン」に当てはまっていたことがわかりました。発達障害の息子の状態を、完全に悪化させてしまう接し方をしていたんです。

息子への接し方に気をつけると、変化がみられるように

息子の話は聞くようにしていたつもりでしたが、「お母さんに言ってもすぐ言い返してくる」と、息子に痛いところをズバリと突かれたことも思い出します。講座を受講したあと、わたしは息子への接し方や話し方に気をつけました。

・息子をひとりの「個人」として接し、共感する
・息子がどんな意見を言おうと、頭ごなしに否定しない
・息子の状態をみつつ、行動することを無理やり促さない

親子で言い合いをするのではなく、「息子にどうしていきたいか」を考えさせるようにしました。毎日の過ごし方が良いものになるように、少しずつですが息子に働きかけていったんです。

すると、息子のなかの”凍った氷のカベ”が溶けてきたのか、トゲトゲした態度が変わってきました。

息子にみえた変化は、以下のとおりです。

・部屋への引きこもりがなくなった
・息子にとって都合の悪い話でも逃げなくなった
・妹へのちょっかいが減った
・悪いことは悪いと、自分で認めるようになった
・自分の考えや気持ちを言うようになった

時間やモノの管理は相変わらず苦手でしたが、精神面では大きな成長が感じられました。そして息子は、塾に通い始めます。

ゆっくりとしたペースではありますが、わが家は中学受験に向けて再び進んでいくことになりました。

二次障害は、「周囲の無理解」が大きな要因

あとから知ったことですが、当時の息子は思春期以降に起こりやすい「二次障害」(※)を発症していたようでした。

二次障害の症状は、発達障害ではない子供にも起こるといわれていますが、いま思うと息子に当てはまる項目がいくつもありました。

※「二次障害」:発達障害の特性を理解してもらえず、過剰なストレスや自信喪失により引き起こされる二次的な障害。一般的に、身体症状、精神症状の悪化、不登校、ひきこもり、暴言・暴力などがあり、思春期以降に現れやすくなるといわれています

子供を変えるより、親が変わる

息子が「無気力」になった当時を振り返ると、息子にとって最も身近な存在であるはずの母親のわたしが、息子の症状を悪化させてしまっていたように思います。

「登校拒否」「塾に行かない」「中学受験はしたいのに勉強をしない」という息子の行動が理解できず、「ただのわがまま」「逃げているだけ」と決めつけてしまっていました。「ほかの子が当たり前に進めるレールから外れてはいけない」「レールに戻さなくちゃ」というわたしの勝手な想いが、親子関係を悪化させていたんですね。

息子を苦しめていたと思うと、ものすごくショックでした。

二次障害の発症は、「周囲の無理解」が要因といわれています。わたしは、まさに息子を理解できていませんでした。

そして息子が変わったのは、「息子を変えようとする」のではなく、「わたし自身が変わること」の大切さに気づけたことが大きかったと思います。

親の威厳をふりかざしても、言葉で応戦しても、力技で動かそうと思っても、子供は殻に閉じこもる一方です。子供は、両親に自分の気持ちをわかってほしいだけなんですね。

・一切否定せず、子供の話を聞いてあげる
・子供に共感してあげる
・子供に無理をさせない

この3つを意識したことで、広がっていた息子との距離を縮めることができたように思います。

子供と一緒に、親も成長する

わたしは親でありつつも、ひとりの人間なので、子供への接し方をすぐに変えることが難しかったり、つい本音が出てしまったりすることもあります。しかし、いまでは「お母さん、またもとに戻ってるよ」と、息子に笑って言われるくらいになりました。

発達障害について十分な理解ができていなかったことで、息子につらい思いをさせてしまったことを、今でもとても後悔しています。息子の症状がわたし自身のせいだと、自分を責めていた時期もあります。何が正解かわからず、そのとき、そのとき、目の前のことに必死な毎日を過ごしていました。

そんな大変な時期を振り返って思うことがあります。子供がつらそうな表情をするのも、子供を笑顔にするのも、すべて親次第ということです。

わたしも痛感していますが、子育ては親の想い通りにいきません。しかし、子供の個性を理解して、その子にあわせた接し方が必要なんですよね。

子育ては大変ですが、大切なわが子と笑って過ごせることが一番です。

わたしもまだまだ子供と一緒に成長しなきゃ、と思っています。

※記事の内容は個人の経験談です


■「親子で乗り越えた、発達障害&グレーゾーンの中学受験」バックナンバー

※記事の内容は執筆時点のものです

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