中学受験ノウハウ 連載 発達障害&グレーゾーンの中学受験

#5 子供の「特性」はどうやってわかりましたか?―― 親子で乗り越えた、発達障害&グレーゾーンの中学受験

2019年7月03日 市川 いずみ

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発達障害&グレーゾーンの息子と中学受験に挑戦し、志望校合格を果たした市川家の中学受験録。どのように中学受験を乗り越えたのか、親子奮闘の軌跡をQ&A形式で聞きます。

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Question #5

子供の「特性」はどうやってわかりましたか?

Answer #5

病院で知能検査を行いました。結果として、得意・不得意がはっきりした「凸凹タイプ」であることがわかりました

息子を発達障害の「グレーゾーン」だと思い込むようにしていた

わたしは、息子が「グレーゾーン」だとずっと思い込んでいました。息子が周囲とちょっと違うなと感じつつも、いつか成長していくだろうと期待していたんです。正直、診断名がつくことが怖いという気持ちもありました。

前回述べたように、5年生の終わりから6年生の春にかけて、息子は発達障害の二次障害になってしまいます。「登校拒否」「塾へ行かない」「やる気がでない」といった状況に直面し、親子でバトルを繰り返す日々……。塾を休み、中学受験をやめることを本気で考えたこともありました。

それでも息子は、「中学受験をやめない」と言い続けます。そして、わたしが「息子に寄り添う接し方」に変えたことをきっかけに、少しずつですが息子は前向きに受験勉強に臨むようになりました。「やる気があるときは頑張る」という息子なりのスタイルで、中学受験を継続することになったんです。

しかし息子は、日常生活では相変わらず苦しんでいました。「頭では勉強をしなくちゃいけないことがわかってても、すっきりしなかったり、気持ちの切り替えができなかったりする。なんだかモヤモヤする感じ」という息子の話を聞き、わたしの不安は募る一方でした。

自然に解決できる問題ではなさそう……
息子はやっぱりグレーゾーンじゃないかも……

居ても立っても居られなくなったわたしは、発達障害専門の病院へ相談することに決めました。

発達障害専門の病院で知能検査をすることに

相談に行ったのは、6年生の6月頃でした。息子が小学校低学年のときに一度お世話になった発達障害専門の病院です。担当の先生に、「困っていること」「息子の状態」「中学受験のこと」を話しました。

先生からは「ADHD不注意型の傾向が強いですね。少し薬を服用してみませんか」というお話があり、夏のあいだは薬を服用しつつ様子を見ることに。そして、10月に知能テストのWISC-Ⅳ(ウィスク・フォー)を受けることになりました。

知能検査はいわゆるIQを調べるもので、結果が数値で表れます。語の推理、知識、理解、行列推理、絵の概念、言語整列、記号探しといった細かい項目を、約2時間検査しました。

息子は「凸凹タイプ」だった

後日、診断結果を聞きに病院に行きました。どういう結果がでるか不安で、とても緊張していたことを覚えています。しかし、息子の状態を改善するために現実を前向きに受け止めなくちゃ、という気持ちで先生の話を聞きに行きました。

息子の診断結果は、「知能指数が高く、算数的項目が得意。処理速度は一般的な平均値」というものでした。結果は、診断表に記載してある数値やグラフ、専門医の所見(得意・苦手なところ、望ましい活動や援助、総合判断)を見ながら伝えられました。

知能検査の結果から、わたしが知らない息子の能力や、得意・不得意といった特性がはっきりとわかったんですね。そして、「全体的な知能指数が高くて処理速度が平均値なら、問題はない?」という思いも同時にわき上がりました。

しかし、そう簡単な話ではなかったんです。たしかに数値だけを見れば、IQは高いほうかもしれません。ただ、処理速度が一番低い数値と、一番高い算数的項目の数値の差が40近くもあることが気になりました。

そして、「得意・不得意の差に開きが大きいため、いわゆる凸凹(でこぼこ)タイプです」ということが先生から伝えられます。

・頭でわかっていても行動ができない
・集中したらやめられない
・気持ちや行動の切り替えができない

発達障害でよくいわれる凸凹の症例が、まさにわたしの息子には見られました。息子が苦しんでいた原因は、凸凹によるものだったんです。得意・不得意の差が大きいことも息子の特性でした。

また、処理速度が40近くも開きがあると日常生活で苦しむことがあること、思考と処理速度のギャップのために体が考える速度についていけていないのでは、という先生の見解も伺いました。

やっと息子の個性を受け入れることができた

これまでのわたしは、息子を「グレーゾーン」だと思い込むようにし、発達障害という診断名がつくことに不安をもっていました。

しかし検査結果を知ったことで、息子の今までの行動に合点がいくようになったんです。

たとえば算数の問題で、息子は線分図や途中式を省略し、いきなり答えを書いていました。わたしは「ミスを減らすために、手を動かしてノートに書きながら頭を整理しよう」と息子に言い続けていましたが、息子は「頭でわかっているから大丈夫」と頑なに言い続け、やり方を変えようとしませんでした。そのため、ちょっとしたミスをしたときは言い合いになってしまうことが何度もありました。

しかし検査結果から、息子の算数項目の能力が高いことがわかります。「あの子なりに頭のなかでやり方を組み立てていたんだ。面倒だからノートに書かなかったわけじゃなかったのか」と納得できたんです。また板書が苦手なのは、処理速度が遅いからということもわかりました。まさか、息子の行動が「特性」からくるものだとは思ってもいませんでした。

今までのわたしは息子の言動を理解することができず、自分の子育てを責めると同時に、息子の行動を責めてしまっていました。しかし、知能検査の結果を受けてからは、わが家の息子への接し方に大きな変化が現れます。

「息子なりに相当頑張っていたんだ」と、息子の個性を素直に受け入れることができるようになったんです。

息子にも知能検査の結果を話しました。息子は「そういうことだったんだ」と笑って、自分が苦しんでいた原因を自分なりに受け止めたようです。

それからは気持ちの切り替えについて言い合うのではなく、話し合うようになりました。勉強面では息子のやり方を尊重しつつ、そのなかでミスを減らす方法を一緒に考えるようにもなりました。板書については「できるかぎりしてみよう」ということを息子に伝え、学校の先生に理解いただけるようにお話しに行きました。

気がつけばすでに6年生の秋でしたが、わたしたち親子にとってこの時期はターニングポイントだったと思います。

息子からは「中学受験をまた頑張りたい」という意志が感じられるようになり、小学校を楽しむ姿も見られるようになりました。

子供の「特性」を知ることの大切さ

発達障害専門の病院はなかなか予約が取れませんし、行くだけでもエネルギーをとても使います。

しかし、病院に行かないまま息子に接していたとしたら、息子は変わらず苦しんでもがき、モヤモヤとしたまま中学受験に向かっていたかもしれません。

やる気があるときはすごいパワーを発揮する一方で、やる気がないときは”逃亡モード”になる息子。そして息子の成長に不安を覚え、どこに向かっていけばいいか途方に暮れていたわたし。親子ともに、中学受験どころの話ではなくなっていた時期もありました。

息子の特性を知るまでに、すごく遠回りをしてしまった気持ちもあります。しかし、一番知りたかった「息子が苦しんでいた原因」を、小学生のうちに知ることができて良かったと思っています。

親だけでなく、周囲にも子供の「特性」を理解してもらう

発達障害は「特性」なので、治すようなものではありません。そこで大切になるのが、特性といかに付き合っていくかを考えること、そして周囲に子供の特性を理解してもらうことだと思います。

子供自身が苦しい状況から抜け出すには、周囲の理解が欠かせません。そして、それ以上に親自身が子供のことを知っておく必要があります。

ちなみに息子は「ADHDの不注意型、得意と不得意の差が大きい凸凹タイプ」とわかりましたが、ほかにも診断名がつきそうだなという症状がいくつか垣間見えます。しかし、発達障害の症状はさまざまな要素が重なっていることが多く、「傾向がある」というだけで診断名がつきにくい場合も多くあります。知能検査に関しても、あくまで発達状況を知るためのひとつの方法です。

診断結果は、中学の進学先を決めるうえでも役立った

ちなみに知能検査の結果には、中学校選びについて以下のようなアドバイスも書かれていました。

知的な探求心に応えることができる学校選び、速さよりも、論理性やじっくり考えることを重んずる校風が望まれる

このアドバイスは、息子の進学先を決めるときに非常に参考になりました。「公立中学よりも私立中高一貫校に行かせたい」という私たち夫婦の思いを後押ししてくれた意味でも、診断結果を得られたことは有意義なことであったと感じています。

※記事の内容は個人の経験談です


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※記事の内容は執筆時点のものです

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