中学受験ノウハウ 連載 発達障害&グレーゾーンの中学受験

#12 入試直前や当日の子供の様子はどうでしたか? ―― 親子で乗り越えた、発達障害&グレーゾーンの中学受験

2019年9月11日 市川 いずみ

0

発達障害&グレーゾーンの息子と中学受験に挑戦し、志望校合格を果たした市川家の中学受験録。どのように中学受験を乗り越えたのか、親子奮闘の軌跡をQ&A形式で聞きます。

#0はじめまして ─── 著者(市川いずみ)の自己紹介

Question #12

入試直前や当日の子供の様子はどうでしたか?

Answer #12

息子は急に口数が減りましたが、心のなかでは「合格」を信じているようでした

小学3年生の2月から始まった、息子の中学受験。いよいよ、入試本番となりました。中学受験をやめようと、何度も親子で衝突した3年間。発達障害の二次障害に苦しんだこともありました。それでも、「行きたい学校の受験をしたい」と、最後まで言い続けた息子。何が正解かもわからないまま、迷いながらも、その時々で最善を尽くしてきました。そしてなにより、塾や小学校、周囲の協力があったからこそ、入試当日を迎えることができました。

はじめての入試当日も、スイッチが入らなかった

はじめての入試は、”お試し”のような受験でした。入試前日は、息子の希望のままに過ごし、食べたいものを食べて早めに就寝。2歳下の妹は、近くに住んでいる祖父母の家に預けました。

そして迎えた、はじめての入試当日。スイッチがまだ入り切っていない様子の息子は、塾の公開模試と同じような気分でいたようです。会場に向かう途中も、とくに緊張した様子はなく、かなりリラックスモード。さらに、「帰ったら遊んでいいんだよね?」と言う始末。入試前に、塾で先生たちの激励があったり、受験についていろいろと話したりしてきたのに、まさかの“緊張感ゼロ”でした。

はじめての入試が終わったあとも、明るくおしゃべりし、お昼ごはんも食欲があり、息子はいつも通りでした。あとから振り返ると、「中学受験とは何か」ということを、息子自身は本当に想像できていなかったんですね。スイッチが入らなかったのも、当然といえば当然です。

そして、結果発表。自宅のパソコンで「不合格」を知りました。「本当に落ちるんだね」と、息子の口からポツリ。ここで、やっと現実を知ったようです。

1校目の「不合格」を受けて、息子に変化が起きた

不合格通知を受け取ったあと、やっと息子にスイッチが入りました。2回目の入試までは、あと少し時間があります。残された時間を使って、息子は今までになく勉強を頑張っていました。そして、いよいよ本命校の入試を迎えます。

当日の朝は、驚きで始まった

本命校の入試当日の朝。息子は、出発前に朝ごはんをしっかり食べ、録画していたアニメを見て笑っていました。予想外の行動に、「えっ?」と夫婦でびっくりです。

中学受験を終えた親御さんの体験談で、「出発前には計算問題をやっていた」という話を目にしていたので、息子にも伝えていましたが、入試直前にまさかのアニメ……。「きっと○○(息子)なりのリラックス方法なんだろうね。好きにさせようか」と夫婦で話し、出発まで何も言いませんでした。

しかし出発すると、はじめての入試のときと比べて、息子の様子が大きく違いました。

家を出ると、一言も会話を交わさなかった

入試会場に入るまで、息子はずっと無言でした。応援に駆けつけてくれた塾の先生たちと握手し、励ましの言葉をもらうと少し笑顔になっていましたが、私たち親との会話はありませんでした。

息子が何も話さなかったのは、極度に緊張していたからだと思います。わたしも余計なことは言わず、見送りました。

入試が終わって塾に行くと、いつもの息子に戻った

入試を終えた直後の息子は、変わらず無言でした。「食欲がないから食べたくない」とだけ言って、あとは何も話しません。受験の様子を聞きたくて夫婦でムズムズしていましたが、息子から話し始めるまで、たいした会話をしませんでした。

ちなみに、3日連続で受験しましたが、日を追うごとに息子は疲れ切っていきました。雪が積もった日もあり、なるべく負担にならない移動方法で学校へ向かったこともありましたが、どんなときも息子は無言。

息子の様子や表情を見ていて、「もし入試が長引いた場合は、力がもう残っていないかもしれない」「リベンジしよう!なんていうガッツは息子には残っていないかも」と、わたしは不安を感じていました。3日間で力を出し切ったというより、本命校で力を出し切った、という感じです。

しかし、本命校の入試を終えた足でそのまま塾に行き、答え合わせをしてから帰宅すると、やっとホッとしたのか、緊張が解けた様子の息子に戻りました。手ごたえを聞くと、「いつもより国語ができた。算数は難しくて、まわりもできなかったみたい」と、時間が経つにつれてポツポツと話し始めました。

「合格」を気にしていた息子

リラックスしてほしかったので、息子が塾から帰ってくると好きなようにさせていました。しかし、いつもなら「ゲームやっていい?」「遊んでいい?」と言ってくる息子が、そんなテンションでもないのか、部屋にこもっていました。

何をしているのかな、と気になって見にいくと、新品の消しゴムをカッターで削り、箱型にくりぬいていたんです。そして、いちばん内側に「合格」という文字――。

「何にも考えないでいたら、こんなのつくってた」と息子は言っていましたが、無心になりつつも、「合格」の二文字が頭をかすめていたのだと思います。

あれほどまで塾や学校に行けず、イヤなことから逃げてばかりいた子が、受験と、そして自分と戦ってプレッシャーも感じていたんですね。親としても、本命校の合否を待っているあいだは、心が押しつぶされそうでした。

長かった中学受験が、やっと終わった

何があっても、息子のなかで揺らぐことがなかった第1志望校の受験。わたしは、結果が怖くて眠れず、ドキドキし続けていました。

そして念願だった第1志望校は、合格。

その瞬間、テンションがあがるというよりも、「よかったぁ。終わったぁ」と、ホッとした気持ちでいっぱいでした。息子は照れているのか、疲れているのか、テンションは低めでしたが、時間が経つにつれて、「中学受験が終わった」という実感がわいてきたようです。

周囲のサポートなしには、中学受験を乗り切れなかった

6年生の秋以降は、時間の流れがはやすぎて、記憶にないくらいです。「流れるプール」で流されていく感じですね。気づくと、あっという間に入試本番がきていました。

親のほうが何度もくじけて、「中学受験をやめよう」「こんな思いをしてまで受験をしなくても……」と、ずっと迷い続けました。わたしたち親子にとって、とても貴重な時間だった一方で、今までで一番苦しい時期でもあったと思います。

これまで、いろいろとありましたが、最後には自分の力を出し切った息子をほめました。そして、「最後までやり遂げたのは、すごく頑張ったことだと思う。だけど、まわりのサポートがあったからこそできたこと。たくさんの人が支えてくれていたことを忘れないようにね」と伝えました。

親として、息子の発達障害を理解できず、苦しかったことは数えきれないほどありました。そんなときも、息子のことを信じて、わが家を温かく見守ってくれた方々には、今でも本当に感謝しています。

※記事の内容は個人の経験談です


■「親子で乗り越えた、発達障害&グレーゾーンの中学受験」バックナンバー

※記事の内容は執筆時点のものです

0